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・・続き4

共有された基準と価値

 役割のモデリングでは、伝統的な当事者組織で行われてきた手法と共通する点が多いが、治療共同体の独自な点は共同体の価値や基準を全員で共有しているという点である。この価値や基準の共有が、先程の回復者スタッフと専門職スタッフの協働という課題に対する鍵となる。

 Amityでは、当事者を「ファーストハンド」、専門職スタッフを「セカンドハンド」と位置づけ、「ファーストハンド」である当事者の経験的知識・技術を重視している(連載第5回参照)。では、依存症者としての経験のない専門職スタッフには何もできないのだろうか?
その答えが、治療共同体としての基準と価値にある。治療共同体では、「ファーストハンド」も「セカンドハンド」も、共同体のメンバーの一員として、共同体の目指す姿を示すことが望まれる。

 例えば、役割のモデリングの部分で挙げた「スタッフは自分自身がやりたくないこと、経験したことがないことを、相手に求めない」という言葉もその価値のひとつである。依存症の経験の有無にかかわらず、共同体生活の中で求められる様々な仕事や役割に対してこの価値が共有されており、自分自身の経験や行動から示し導くということが求められる。

 また、共有された基準として、Amityでは基本的前提という14項目の行動指針が受け継がれている(連載第4回参照)。このような共同体としての行動指針を、毎日の全体ミーティングや、グループの中で議論し、一人一人の価値として内面化されていく。
 
 このような共同体の価値や基準の共有は、現在の日本でどのように実現する事が可能だろうか。
 アメリカなど既存の治療共同体の価値や基準を受け継ぐという方法は、すでにいくつかの施設で行われている。例えば、先ほどのAmityの14の基本的前提を共同体の理念として用い、共有していくことはひとつの方法である。しかし、重要なことは、その理念が何のためにあるのかを理解することである。

 Amityのスタッフが「治療共同体は形式ではなく本質である」と教えてくれたことがあった。既存の理念やツールを用いるだけでは治療共同体は実現できないのである。そのために、治療共同体としての理念を回復者スタッフも専門職スタッフもメンバーも同じように共有していくことが目指される。

 日本でも、例えばAAなどで12の伝統や12ステップという方法でグループの理念を継承するということが行われている。しかし、その伝統やステップの用い方は個人により異なり、「スポンサーからの提案」という個人的経験に基づく価値によって大きく異なる。治療共同体では、個人的経験によって判断が左右されることを避けるため、あらゆる決定はグループを用いてなされている。そのグループの根底に流れているのが、治療共同体の価値であり、その価値を用いることで、一定の基準が保たれている。

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