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・・続き5

 ここでは、伝統的な治療共同体運営方法が用いられており、特に仲間による確認・見守りの中での回復を重視した構造となっている。一日の言動を仲間同士で確認し、見守りあう。そして、その中での気づきを、全体ミーティングやグループなどで指摘しあうのだが、直面的な方法が多く用いられている点が、Amityとは大きく異なる点であった。
 朝のミーティングの時間の多くは、「プルアップ」といわれる間違った言動を指摘して回復を促す時間に費やされる。「プルアップ」は、共同体生活の中で間違った言動をしている入所者に対して心配を表現するもので、その間違いを共同体の中で自発的に受け入れられる機会を提供している。

  ある入所者が「セミナーの後に自分で椅子を戻さない人」と問いかけると、何人かがその指摘を認め、自発的に立ち上がる。(より先輩の入所者がロールモデルとして立ち上がっている)すると、その立ち上がった人たちに対して他の入所者が、「あなたはもし変わりたいと思うなら、自分の怠け心をゆるすべきじゃないと思います」とその理由を伝える。
 このように、共同体全体で正しい言動を求めていく作業をしていく。このような直面的な手法は世界的に広がっており、地域性を考慮した多様なプログラムが運営されている。
 Amityでの肯定的なコミュニケーションによる情緒的な回復を見てきた私にとっては、この直面的な方法は、とても衝撃的で違和感を覚えた。

 しかし、このような直面化プログラムには、その目的があり、そのグループを安全に行うためのルールや役割がある。このような、目的やルールや役割が共有されるからこそ、このような直面化が意味のあるものになるのであり、それがなければただの攻撃になってしまう。

 また、このような直面的なプログラムだけでなく、情緒的な振り返りを目的としたグループもあり、長時間かけて同じメンバーで、それぞれの体験を振り返る作業をおこなっている。このグループには参加できなかったが、このような情緒的つながりを育む中でこそ直面化グループを運営することができるのだろうと感じた。
 ここまで、各施設の特徴を挙げてきたが、治療共同体としての共通点がどのようなものなのか、理念・構造・実践という面からみていきたい。

治療共同体の理念
 まず、施設や立場にかかわらず共通している点としては、その治療共同体の理念や哲学を挙げている点である。理念についてDAYTOPのアシスタントディレクターは、「DAYTOP は、ディレクターではありません。DAYTOP は建物でもありません。DAYTOPでずっと変わらないものは理念です。それがDAYTOPの基盤となっているものです。」と表現した。またAmityの見習いの一人は、「今や理念は私の一部になっています」と語った。このように、治療共同体の理念を一人一人が獲得しているという点が大きな特徴である。

 治療共同体の独自性は、これらの理念が入所者・スタッフ見習い・スタッフの区別なく誰もがこれらの理念を有している点にある。スタッフも入所者も同じ理念を共有し、同じ理念を目指している。

 日本の現状を振り返ると、施設の理念を有する機関や利用者のルールを設けている機関もあるが、果たして同じ理念を掲げている施設はどれくらいあるだろうか。治療共同体では、スタッフも「自分の経験を通し、教え、勇気づける」ことをめざし、入所者も「自分が助けられたように人を助け」ようとする。そして、「誰もが当事者」であることを前提に、入所者・スタッフの枠組みを超えて「正直さ」をもって「つながり」、全員の「人生の再構築」を目指していく。これらの理念が治療共同体の独自性を支えている。
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