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・・続き5

構造とシステム

 このような価値を内面化するために用いられるのが、治療共同体独自の構造とシステムである。治療共同体の特徴的な構造として挙げられるのが「段階性」である。
(図A参照)

 連載第5回でも述べたが、図Aのように、デモンストレーターから、ニュースチューデントまで、回復の段階に応じて、一人一人が少しずつ大きな役割を担う構造が設定されている。この「段階性」にはいくつかの目的がある。一つは、従来スタッフのみが担っていた様々な役割を、当事者同士で分担することで、当事者とスタッフの間にある溝を段階的に埋めていくことができる。

 次に、共同体を一つの社会として、コミュニケーション技術や生活技術などを習得することができる。
 そして、それぞれの回復の段階を目に見えやすい目標として設定されているため、個人個人の回復に一定の指標を提供する事ができる。
 
 このような段階性は、治療共同体モデルの中でもっとも日本に導入しやすい形式のようである。治療共同体モデルを導入している各施設が共通して用いているのがこの段階性である。協調性や組織の一員としての自覚を幼少期から学んできた日本人には、自然と身につきやすい構造なのかもしれない。

 しかし、この段階性を実施する上で重要な点は、この構造が形骸化してしまうことを避けることにある。ともするとこの段階性は単なる権威主義の構造になりかねない。単なる権威主義の構造を回避するには、先に紹介した治療共同体の価値や理念と同時にこの構造を用いる事が重要となる。一人一人が何か行動する時に、段階を上がることが目的になるのではなく、共同体として必要な行動は何かを考え、そして、自分自身の回復にとって必要な行動は何かを考えることが重要となる。


安全な場(サンクチュアリ)を創るために

 ここまで、治療共同体の4つの要素について紹介してきた。これらの要素を実現する時に大事なことは、「形式ではなく本質」を実現することにある。それは、治療共同体モデルを導入する事が目的となってしまうのではなく、その本質としての「安全な場」、Amityではそれを「サンクチュアリ」と表現するが、そのサンクチュアリを創りだすことにある。
 私があるダルクで治療共同体モデルを始めるときに、重視したことは安全にお互いが思いや意見を伝え合える場を創ることだった。そのために、いくつかの指針を作成した。ひとつは、「エンカウンター・グループガイド」で、グループで何を大切にするのかを示したものである。このエンカウンター・グループガイドでは、安全にフィードバックを行うための心構えを示している。相手に意見や思いを伝える際に、陥りがちな行動に対する注意を促すことと、グループで目指す姿勢を示すことを目的にしている。

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