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・・続き2

メンバーシップ・フィードバック

 現在日本のアディクション回復支援において最も利用されている形式は、「言いっぱなし、聞きっぱなし」の形式である。「言いっぱなし、聞きっぱなし」とは、AA(アルコホリクス・アノニマス:アルコール依存症者のための自助グループ)などが用いているミーティングの形式であり、その言葉通り、ミーティングやグループの際に、一人ずつ自己語りを行い、その間周囲の参加者はただ耳を傾けコメントや質問を行わない形式である。

 この形式が世界中に展開されている大きな要因の一つは、「安全な場」を確保できるということにある。それぞれが課題を抱えてグループに参加し、勇気をもって発言した内容に対して、誰かからコメントや意見をされることによって傷つけあうことを避けることができる。

 一方、治療共同体ではメンバーシップ・フィードバックといって、あらゆる場面で積極的にメンバー同士の気づきや思い、疑問や質問などを伝え合うことを行う。同じ体験や悩みをもつメンバーから与えられる言葉は、率直で、時に鋭く、時に温かいものとなる。
 
 このようなメンバーシップ・フィードバックを取り入れている施設はまだ少ない。治療共同体モデルを導入する施設でもメンバーシップ・フィードバックを用いたグループについては、「日本人には合わない」と消極的である。感情表現や自己主張をごく自然に行うことができるアメリカ人に比べ、日本人は周りとの協調を大切にし、感情を我慢する事がよしとされる文化があることが影響している。

 しかし、私はメンバーシップ・フィードバックが日本人に合わないとは考えていない。以前AMITYに滞在していた時、私も同じように「ここはアメリカだからできるんだ」と考える事が多々あった。しかし、Amity滞在を重ねるうちに見えてきたのは、アメリカだからできるのではなく、一人一人の心の中に安全な場が築かれることが大切なのだということだった(連載第5回参照)。

 日本であろうがアメリカであろうが、メンバーシップ・フィードバックを行うために必要なことは安全な場を創ることであり、そのためには信頼関係が育っていること、安全なフィードバックを行う方法を共有していることが必要だと考えている。

 今年の4月からあるDARCでメンバーシップ・フィードバックを用いたグループを始めている。一番初めのグループを始めるとき、私も含め誰もが「誰かに意見する事も、誰かに意見されることも不安だ」と話していた。しかし、相手を傷つけないフィードバックの方法(この点は後で詳しく説明したい)を1回1回と会を重ねるごとに共有し、今ではDARCの中で人間関係の中での悩みを抱えたときには、「グループで話そう」という空気ができるまでになっている。

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