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第五回目のテーマは「社会的養護と当事者活動」
児童養護施設での生活体験者で、当事者活動をしている渡井さゆりさんとの対話です。
   
・・続き6
箱 崎 : その子の支援以外は、引きこもりがちだったんですか?
渡 井: はい。子どものことをお母さんとヘルパーの私との間とでノートでやりとりをしていたんです。お母さんは私に時々子どものことを悪く言ったり、愚痴を言ってくるんですけど、お母さんのそういう話を聞く必要もあるなと思いながら、子どものいいところをそのノートに書いて伝えたりしていたんです。そうしたら、ある日ノートに、ヴィクトール・E・フランクルの『夜と霧』に書かれていたと思うんですけれど、「人生の意味というのはそもそもあるものじゃなくて、つくるものだ」みたいな言葉をお母さんがノートに書いていたんです。実は私も以前、自分の中で生きる意味みたいなことを探していて、同じ言葉を手帳に書きとめていたんです。そしてそれを救いに日々過ごしていたんです。
箱 崎 : その子どものお母さんが書きとめたフランクルの同じ言葉を渡井さんも以前から手帳に書いていたんですか?
渡 井: はい。私は自分がしんどいと思っているとは人に知られないように過ごしていたんです。だから、そのことをそのお母さんと話していないのにお母さんも同じ言葉を書いていて、そのノートを見た時に、私はすごく視野が狭くなっていて、自分だけがしんどいって思っていたけど、この親子は、たった2人の親子なのに、お母さんが自分がこの子を残して先に死んでしまうと思うと辛くあたっちゃう時があるとか、その子のことを大事に思いながら絶望していて。その時、絶望しているのは私だけじゃないんだということに気づいて、目が開かれて。フランクルの同じ言葉を希望にして生きようとしている人がいることで考えさせられたというか、自分だけじゃないんだと思って。だからって、すぐに元気になるわけじゃないですけど。
箱 崎: でも、そういうことがあって、ちょっとずつ上向きになって。
渡 井: そうですね。ただも、ちょっと福祉ではない生き方も考えて、ヘルパーの仕事だけじゃなくて、家庭教師をしたり、フィットネスクラブで、利用者さんと一緒にストレッチしたり、マシンの使い方やトレーニング方法を教えていました。
箱 崎: 随分いろいろな仕事をしていたのですね。
渡 井: そうなんです。今まで、施設で暮らしていたことも、結構誰にでも伝えていたんですね。でも、何かそれで、虐待のことを考えるようになった時期に、周りの人に施設で暮らしていたからこうなんだとか思われているかもしれないなとか、すごく感じてしまって。誰にでも言っていいわけじゃないんだなあっていうのを知って、そのフィットネスクラブでは言わなかったり、どう生きていくかという処世術みたいなことを試行錯誤して、だんだん前向きになっていきました。大学3年生で社会福祉実習では、希望していた児童養護施設の実習に行きました。
箱 崎: 施設実習はどうでしたか?
渡 井: うーん、自分ができることって何かなっていうことを考えさせられて、ちょうど施設で暮らしていたOBとしてボランティアも始めてたんですね。ボランティアの方が、サラリーマンやOLの方と出会ったりできるし、福祉の仕事じゃなくても、仕事に就きながらボランティアみたいに関われるのがいいなあって思ったんです。
箱 崎: 仕事という道以外にも選択肢があると。
渡 井: はい。職業人としてだと、仕事でやってるんだなってなってしまう。そうじゃなくて、本当に伝えたいことは、ボランティアの方がいいのかもしれないなあっていう気持ちになったんです。実際に児童養護施設で実習させてもらって、子どもたちと関わるけれども、何か一職員としての言動というのがどうしても強いられるなと思って。でもそうではなくて、私はこう思うよとか、こう感じるよとか、そういうことを言いたいなって思いました。子どもとそういうつき合いをしたいなと思って。でも、施設職員だとそれは無理だろうなあって。それで、その前からちょっと児童相談所のワーカーの仕事はできないなというのを感じていたので。それから、私みたいな施設で暮らしていた人はどうしているのかなと思って、ネットで、「施設出身者」って検索したんです。そうしたら、すごく施設のことを批判している施設出身者の方でホームページがあったんです。私はそこまで施設批判みたいな気持ちにはなれなくて。それとは別に、高萩の施設で暮らされていた方で今、茨城県高萩市の市長をされている草間さんのことも知りました。

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