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第五回目のテーマは「社会的養護と当事者活動」
児童養護施設での生活体験者で、当事者活動をしている渡井さゆりさんとの対話です。
   
・・続き5
箱 崎 : 自営で始めるというのは勇気がいりますね。
渡 井: そう。その方はあまり意識していなかったと思うですけど、当事者で、その人もお母さんが蒸発して父子家庭で、不登校だったんですよ。でも、お父さんは仕事が忙しくて子どもは手をかけてもらえなくて、その人も1人で生きてきたみたいな感じで。不登校だったけど、これじゃいけないなと思って国立の大学へ行って、教員目指して教育学部へ行って養護学校教諭になったんです。それで今は引きこもりの支援をしていて。
箱 崎 : 渡井さんは、不登校体験のある方が、引きこもりの人をサポートしたことに共感したのですね。
渡 井: そうです。共感したんです。それで引きこもりの人のサポートを手伝っていたのですが、40代で引きこもりの人もいたり、半分の人はたぶん精神疾患があったと思います。それでもっと若い人のサポートをすることをしたいねと言って、塾を立ち上げようとしました。私は引きこもりのサポートの仕事で自分で営業もしたり、いろいろ大変でした。そんな時に、大学では、ちょうど虐待のことを学び始めて、それまで虐待の定義の4分類とか知らなかったんですけど、そういうのを知って、これ、全部自分がされてることじゃないと思って、知れば知るほどきつくなってしまって。引きこもりのサポートの仕事もうまくいかない中で、人づき合いも途絶えていたんで、すごく置かれている状態が悪くなってしまいました。
箱 崎: それは何年生の時ですか?
渡 井: 2年生の時です。すごく自分のせい、自分のせいって思ってしまって、こういう状態なのは自分の生い立ちのせいなんじゃないかと思って、結局、別に望まれて生まれてきたわけじゃないし、自分も何か、義務感で生きてきて、施設でも仕事で育ててもらったに過ぎないし。何かこう、自分が有益な存在であるように頑張って生きてきただけで、私自身が望んで生きているわけじゃないなあって思って、しんどかったですね。
障害のある母子との出会
箱 崎: そのようなしんどい時期をどうやって乗り越えたのですか?
渡 井: 最初は、すごく死にたくもなったりしたんですけれど、死んでも、どうせ母が狂って、妹、弟に迷惑をかけるだけで、自分は楽になるというだけで何もいいことはないと思って。ぎりぎりで、そういうのはできないなって思って、死ねないならどうしたらいいかなって思いました。引きこもりの支援を一緒にしている人ともだんだん関係が悪くなって、その仕事は辞めて、ヘルパーの仕事を始めました。知的にハンディのあるお子さんのヘルパーを始めて、そこも母子家庭だったんですよ。子どもがダウン症で、その子が生まれると両親は離婚して、母親が育てていて、その方も腰が悪くて障害者手当をもらっていて、団地で暮らしていたんですね。私は、毎週土曜日、朝、その子の家に行って、NPOがやっている障害のある子向けの水泳教室に連れて行って一緒に泳いで、お昼ご飯を食べて帰ってくるという仕事をやりました。その頃、私は大学を辞めようと思っていたんで、もう学校にも行っていませんでした。
箱 崎: どうしてですか?
渡 井: 大学の実習のオリエンテーションがあって「母子生活支援施設や児童養護施設で暮らしていた人でトラウマがある人は来ないでください」みたいなことをみんなの前で言われて、私のことだと思いました。気遣ってくれているんだったら、直接呼んで言ってくれればいいのにと思いました。その時、私はトラウマがある人なんだって思って。トラウマっていう言葉も好きじゃなくて、自分はトラウマを抱えているとか思ってなかったんですけど、人からそう言われて、ああ、そうなんだって思って。私は何のために今まで頑張ってきたんだろう、もう学校も辞めようと思いました。引きこもりの支援の仕事もうまくいかなかったので、すごく無力感や罪悪感も感じていて。でもそういうことを抱えながらも何とか回復しようと思ってヘルパーの仕事を始めて、それで出会ったダウン症の子どもは、愛に飢えている感じがして……。
箱 崎: 何歳ぐらいの子どもですか?
渡 井: 当時小学校3年生だったのかな?すごく慕ってくれて、楽しみにしてくれているんで、その時だけは私は外に出られました。ちょっとそういう精神状態であることを知られたらよくないと思って気丈に振る舞っていたんですけど。

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