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第五回目のテーマは「社会的養護と当事者活動」
児童養護施設での生活体験者で、当事者活動をしている渡井さゆりさんとの対話です。
   
・・続き14
本を養分にして
渡 井: 私は落ち込むと本を読んだりして、いろいろな方がいるんだなあと思ったりするのですが、その時に、ははき帚ぎ木ほうせい蓬生さんという現役の精神科医の方の小説で、『閉鎖病棟』という作品があるのですが、それを読んだら、生きようってすごく思ったんです。自分は生きられるなって。
箱 崎: その小説のどういうところからそう思ったのですか?
渡 井: 『閉鎖病棟』の中にもいろんな方が出てくるんです。読む方によっていろんな読み方をされると思うんですけれど、私は、統合失調症を患いながら生きる人とか、トラウマに苦しんでいる人とか、登場人物に励まされたり、共感されたりもあるんですけれど、支える援助者の方にも希望を感じてそういう存在が必要だなって思ったり……影響を受け過ぎかもしれませんが(笑)。でも、帚木さんの小説はリアリティーがあるんですよ。痛みを乗り越える人の強さみたいなのに私もすごく勇気づけられました。帚木さんの作品って、本当に人への愛というのが凝縮されてるんですよ。書かれている話は胸を裂くようなものだったりするんですけど、どうしてこの作家さんがこれを残しているか、文にまとめているのかを考えた時に、「生きよう」っていうメッセージだなと私は受けとめたんです。
箱 崎: 帚木蓬生さんの『閉鎖病棟』を読んだ時に、渡井さん自身も生きようと?
渡 井: はい、その後も何冊か読みました。それまでは芥川龍之とか、結構、自殺する人の本を読んでいたんです。
箱 崎: それは25歳になる前のことですか?
渡 井: そうですね。「日向ぼっこ」を始めてからはあまり本を読めてなかったんで、その前に。
箱 崎: 「日向ぼっこ」を始めてからの渡井さんは、外から見ると、回復して元気でいるように見えたけれど、死にたい気持ちになることが時々あったのですね?
渡 井: そうですね。
箱 崎: それが25歳になって、なくなって。
渡 井: はい。どうしてって思われると思うんですけど、いろいろあって……。ちょっとお伝えしにくいんですけれど、ちょっとあって本を読んだりとか、またちょっと自分の養分みたいなものを入れたいなと思って。ずっと勉強会をやっていて、知識を得ることは、必要な方のためでもあるし、自分たちのためでもあるんです。そんな中でも意見の対立があったりする。これまでは、意見の対立があると、自分に養分をあげられていませんでした。私の人生、たぶんずっとそういう生き方で。
箱 崎: 自分へのケアを忘れて自分を酷使してしまうところがあるという。
渡 井: そうですね。
箱 崎: それがちょっとこう、少し自分を大事にしようという感じになってきたのですか?
渡 井: そうですね。いたわるみたいな。
箱 崎: いたわる。
渡 井: そうですね、いたわるようになって。
箱 崎: 人に相談とかができるようになったと?
渡 井: ああ、そうですね。
箱 崎: 困ったことがあったら助けを求めるとか。
渡 井: そうですね。
箱 崎: 子どもの時には誰にも相談できずに何でも一人で決めて生きてきたけれど。
渡 井: そうですね。人に任せたりするのも、それまでも別に周りの人は手伝うよって思ってくれていたと思うんですけれど、でも、結局、お願いしてもこうじゃない、みたいなことがあったりするんで、それでちょっとね……。たぶん、自分でいろいろやってきた分、自分に評価が厳しいと思うんです。だから、たぶん人にも厳しくなってしまうと思うんです。根本的な部分で人に任せられない、信頼できないから任せられないしょうがなさというのが私にはあると思います。私も別に好きでそうしているわけではないので、それを批判されると、ちょっと辛くなって。でも、そういう人との衝突を経験できたから今があるので、よかったと思うんですけど。

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