箱 崎 : |
それは、その時は渡井さんの中で人を信頼できないっていう気持ちがあったからなのでしょうか?
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渡 井: |
うーん、そうですね、あんまりこう、人を信頼したいと自分が思っているのかもわからなかったですね。 |
箱 崎 : |
その時はまだ人との信頼関係を築く体験したことがなかったのでしょうか? |
渡 井: |
なかったのかもしれないですね。 |
箱 崎: |
どういうことが信頼し合うっていうことなのか、信頼関係を知らないとわからないじゃないですか。先程、搾取って言いましたが、搾取されずにお互い与え合える関係というのは。 |
渡 井: |
うん、うん、お互いに心地よい関係。そう、たぶん相手は、大体の方はそんなに悪気はなくて、対等な関係を求めているじゃないですか。でも、私は友だちの前だと我慢して、ちょっと後で、しんどかったなあっていうふうに感じたり、しゃべれなくなったりして。でも、恋人の前だと何かこう言葉にできないし、自分がそういう不満を訴えてもいいとも思っていなかったんで、ぽろぽろ涙が出るんですけれど、相手には気づかれなかったり、気づいたとしても、おろおろしていて、「なに?」とか言ってくれるけど、私は言えなかったりとか、18、19の時、高校の時もそういう感じでしたね。 |
箱 崎: |
言えない気持ちが涙で出てきたりする。でも、「どうしたの?」って聞かれてもどうしてだかわからないっていう。 |
渡 井: |
そう。自分が悪いんだみたいに思っていたので、そういうことは言うべきでないみたいな感覚だったし、言ってもわかんないだろうなって思っていました。そんな時に、リゾート地でのバイトの住み込みの寮にその中年の女性が転がり込んできて、母親に連れ回されている幼い子どもが自分とだぶって不憫に思ったんです。それで改めて、自分は何かそういうことに引っかかるんだなというのを感じました。 |
箱 崎: |
そういう親子が気になると? |
渡 井: |
はい。すごく気になるんだなって感じて、最初は落ち込んだんですけれど、自分で言うのは何なんですけれど、ここが私の回復力というか、いい面だと思うんですけれど、悩んで悩んで、でも、結局、落ち込んでいてもどうしようもないじゃないですか。だからこう、何か、ただ悩むだけじゃなくて、その経験とかをプラスにできたらいいなと思って。まだこのころはそこまで強くじゃないんですけど、おぼろげながら、やっぱり育ちのせいなのかなと思ったんですね。自分の経験を生かして施設とか児童相談所で働いたら、何か子どもに、もっとわかってあげられたりするのかなあみたいに、ぼんやり思っていました。 |
箱 崎: |
渡井さんとお母さんのような母子の姿を見て、自分の体験を生かせるのではないかと思ったんですね。 |
渡 井: |
そうです。でも、まだ19歳だったので、何もできないじゃないですか。で、どうしようかなあって思っていたら、笑い話というか、本当に偶然なんですけど、たまたまそのパーティーコンパニオンの宴会で、東洋大の工学部の教授のご一行の宴席があったんです。これは何かの巡り合わせだなと思って、仲良くなった教授の方と、「自分はちょっと実はこんなふうに思っているんですよ」って話をしたら、「もう、君みたいに思っている人は勉強するといいよ」って言ってくれたんです。「うちには社会福祉学科もあるし、夜間部もあるよ」って教えてくれて、後日自宅に資料を送ってくれたんです。それで、パーティーコンパニオンの仕事は3カ月って決めていたので、12月で辞めて、1月の仕事は東京で決めていました。その12月末にその東洋大のパーティーがあったんです。12月に寮にそのおばさんが転がり込んで悩んでいた時期だったんで、1カ月の仕事をやった後に東洋大学を受験してみようと思って、2月に受験しました。 |