・・続き6
治療共同体の構造
治療共同体において構造は非常に重要な役割を担っている。先にも述べたが、独自の仕事構造や、ロールモデル、そして独自のグループ・ワークが日々行われ、それを理解し、参加していく過程が、回復の重要な一部となっている。
これらの構造を学んでいく過程として共通して挙げられたのが、「実際に行うことで学んだ」という点と、「最初はどんな意味があるのかわからないし、とても大変だった」という点である。
私も共同生活を送る中で実感したことだが、何十人もの人との共同生活は容易なことではない。衣食住すべてにおいて、共同生活が営まれるための決まりがあり、それらひとつひとつを学んでいくことも大変だが、何より人間関係の渦の中に飛び込んで、その一部になっていく過程には、人間としての成熟さを要求される。
これについてある入所者は「小さな社会」だと表現したが、まさに、治療共同体は、人間関係の難しさをアルコールや薬物で回避してきた依存症者たちに、「小さな社会」を生き抜く方法を学ぶ環境を提供している。
このようにして、入所者は困難を克服しながら実際に経験することを通して構造を学んでいく。重要なのは、そこに強制力が伴っていないことである。スタッフや先輩入所者はロールモデルであって、指導者ではないのである。
このような構造に対する配慮としては、入所者よりもスタッフの方がより明確に構造を意識し、それに関わることを心がけていた。入所者にとっては日常生活が構造に基づいており、日々生活することが構造を学ぶことであり、回復していくことを意味している。一方、スタッフは自分が経験し学んできた構造について自ら「参加」し、コミュニティの一員としてロールモデルの役割を果たすことでその構造を支えている。
治療共同体の実践
キーワードは「言葉より行動」「正直さ」「正しい行い」であった。治療共同体ではあらゆること、理念や構造やその実践のすべてが「行動」を通して示される。それゆえに、自分自身にできうる限り「正直」に「正しい行い」を目指して日々の生活が営まれる。
しかし、それは言葉でいうほど容易なことではない。ある見習いが「そうすることはとても大変で、もう好き放題してしまいたい!と思うこともある」と話してくれたように、人は完璧であり得ない。
私は、みんなに「どうやって自分自身でその正直さや正しい行いを続けられるのですか?」と尋ねた。すると、あるスタッフは「自分ではやらない。正直にあるために、友人やグループを使うのです」と答えてくれた。治療共同体では、正しい行いも、間違った行いも、グループをもって、その中で学び、真実を伝えあう、「ピア・チェッキング」が行動を支えている。
このような「ピア・チェッキング」の基盤となっているのは、特にAmityで多く挙げられた、「友情を築くこと」、そして「自分が取り組みたくないこと、取り組んだことのないことを相手に求めない」という指針だった。常に自分自身の経験から相手を導くという方法によって、お互いに、「正直さ」や「正しい行い」を目指しあうことが行われている。
そして、スタッフで多く挙げられたのが「一貫性をもつこと」だった。スタッフの状態や都合によって、言動を変えるのではなく、常に一貫した言動が目指される。そしてそれは、職場と家庭とで切り替えられるものではなく、常にどのような場面でも自分自身の最善を尽くすことを目指している。このような独自の専門性が治療共同体の中で必要とされている。
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