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・・続き2

 ここでは誰もが忙しそうに動き回っている。起床してから就寝するまで、10分単位でプログラムが設定されている。160名がこの建物の中のどこでどうやって生活しているんだろうと思うほど、規律に守られて、整然としている。このことについて、あるスタッフは、「プログラムの最初の目標は暇な時間を作らないこと。彼らの多くが、その暇な時間に薬やアルコールを使っていたから」と説明してくれた。

 何より印象的だったのが、シャツにネクタイ姿のアプレンティスたちの活躍だった。それぞれここでの仕事に携わっており、あるアプレンティスは、就労支援プログラムのアシスタントとして、スチューデントたちのコーディネートを担当していた。彼らは、入所者たちからの信頼も厚く、何より身近でよいロールモデルになっていた。数か月前まで、自分と同じような境遇にいた彼らが、シャツにネクタイ姿で、自分たちをサポートし、そして、自分たちと同じようにミーティングやグループに時間どおりに出席し、率直に自身について語る姿をみて、「自分もああなりたい、なれるかもしれない」と思わせる。

 驚かされたのは、このようなアプレンティスやスタッフたちに向けて行われていた「ロールモデルグループ」といわれるものだ。何がロールモデルなのか、どのようにロールモデルとして行動できるのかを、1日かけて、人が入れ替わり立ち替わりしながら、グループで話し合う。ファシリテーターのスタッフは1日中、熱心に参加者たちに問いかけていた。そして、グループの中での話し合われる対象者が展開しながら、入れ替わり立ち替わり、スタッフやアプレンティスやスチューデントがお互いに問いかけ、意見を投げかけ、気づきを与えようとしていた。このようなグループが週に1度は開かれているとのことだった。こうした環境の中で、アプレンティスたちは力をつけ、活躍する源を得ているのだと感じた。

 ロスのAmityは利用者もスタッフも男性が多く、さらに司法システムと連携していることから、犯罪のコミュニティにかかわり独自の慣習や文化の中で生きてきた利用者を対象としている。そのようなコミュニティから人間としての回復を目指していく中で、規律やシステムを遵守している印象を受けた。しかし、その機能的な構造の中にAmity独自の人間としての温かみや深みをロールモデルとしてスタッフやアプレンティス達が身をもって示していた。
 
Amityの原点
 次にアリゾナ州ツーソンにあるCircle Tree Ranchを訪れた。今回が5度目の訪問だ。今回の半年ぶりの訪問では、アプレンティスのエマの部屋に滞在することになった。アプレンティスの部屋は、「エモーショナル・エマージェンシー・ルーム」とも呼ばれ、スチューデントは情緒的に苦しいときや辛いときはいつでもこの部屋を訪れることができ、アプレンティスがスチューデントの話に耳を傾ける。

 私が滞在中、一人のスチューデントが毎晩のようにエマの部屋を訪れ、たわいのない日常会話をしたり、一緒にワークブックに取り組んだり、そしてそのスチューデントの抱える問題について話し合ったりしていた。そのことについてエマは、こう説明してくれた。「彼女は人に対する信頼を失っていて、誰の言葉も受け入れようとしなかった。そして、いろんなトラブルを引き起こして、そのうち一人また一人と彼女に対して向き合わなくなっていったけど、私は諦めたくなかった。最初は、私に対して敵意を示してきたけど、それでも私は向き合い続けた。彼女は人に愛を与えられた経験がなかったから、抵抗していたんだと思う。今では私の言葉に耳を傾けるようになってきて、何かあったらいつでもこの部屋においでって伝えたら、毎晩訪れるようになったの」
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