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・・続き7

母親を含めて開かれた緊急家族会議
6月12日 
 私が朝早くオフィスに着くと、デスクの上には夜勤のソーシャルワーカーからのレポートが置いてあった。母親のナディアには親子分離承諾書が手渡され、ブラッドリーは昨夜のうちに無事に里親に措置された、という報告だった。

6月13日  
 ブラッドリーのための、緊急家族会議が開かれた。エヴェレットの児童保護局の会議室にナディアと祖母のヘレン。ナディアのセラピスト、ブラッドリーの新しい里親、そして私とスーパーヴァイザーが座っていた。議長がまず、参加者に自己紹介をして、この会議のルールを説明した。「この会議は、ファミリー・ティーム・デシジョン・メーキングといって、家族や家族の支えになっている人たちが、知恵を出し合って子どの安全を守り、親や里親を支援し、パーマネンシーに向かって具体的な案を打ち出してゆくものです。ですから、参加者はひとの威厳を損ねるようなことは絶対にいわないこと。一人ずつ話すこと。そのルールを守ってください。」

 ブラッドリーを自分から取られた母親のナディアが、不服そうに唇を尖らせて児童保護局への苦情をきりだし、議長は会議の方向をポジティブな方向に導こうとした。「まず、ナディアのケース・プランをみんなで考えたいと思います。」ティームは母親と子どもとの面会を頻繁にして、母子がともにペアレンティング教育に通えるプランを立てた。

 里親のマーサが大きなテーブルの一番端の席に座って黙っていた。里親が子どもの肉親とその家族の出席する会議の輪の中に他人として入っていくことには勇気がいる。マーサは、母親との連絡帳を交換する案を自分から持ち出した。ブラッドリーのフォーミュラの量や、睡眠や健康について、母親にメモをしてあげる提案だ。そして、ティームは“アイスブレーカー”という里親と母親の間のコミュニケーションを育むミーティングを3週間後に予定した。

 「この会議に父親が出席していないんですが、ブラッドリーの父親は誰なんですか。」議長は訊いた。ナディアは「この子の父親は、フレッドという名前だということしか、今はわからないの。」と言った。
 母方の祖母へレンがトミーの世話で手一杯で、ブラッドリーまで引き取れないことをティームはよく理解したが、今後、ブラッドリーを長期に引き取れる、または養子に取れる親族はいないのかどうかも、議題のひとつとして話し合われた。母親がブラッドリーとの親子再統合をできなかった場合のことも考えたからだった。 

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