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・・続き5
母親の恋人による長男への性虐待の疑い
次の日、母親のナディアがソーシャルワーカーからのインタビューを受けた。ナディアは、トミーをスターバックスに連れて行ったことははっきり覚えていたにもかかわらず、トミーが、今どこにいるのか、たずねようとしない。そして、奇妙なことを切り出した。「おとといの晩、私と恋人のヘクターが一緒にベッドに寝ているときに・・・その時にトミーもベッドの中にいたのよ。ヘクターがトミーのズボンの中に手を入れているのをぼんやりだけど、見たようなおぼえがある。なぜぼんやりかっていうと、ヘクターは私の足に強いドラッグを注射したから、わたし、うとうとしていて、そのへんが思い出せない・・
・。」トミーへの性虐待を疑わせるような母親のその証言の真相を児童保護局は確認できなかった。トミーがその出来事をまったく覚えていないからだった。
ナディアは数日後、自分の恋人のトミーに対する“性虐待”について警察所に訴えにいた。警察署は逆に、ナディアがスターバックスにトミーを置き去りにした児童放置罪と大麻所持の現行犯で逮捕した。ナディアは、2週間拘置所に入れられたとき、ふたり目の子ども、ブラッドリーをすでに妊娠していた。
トミーのケースが緊急レスポンスのソーシャルワーカーからオンゴーイングのワーカーの私へと引き渡されたときには、トミーの顔の痣はもうすっかり薄く、ほとんど見えないほどになっていた。私は、トミーの祖母のヘレンの家に来ていた。一軒家なのにとても小さく、ベッドがひとつしかない。ヘレンはそのベッドにトミーを寝かせているので、自分はリビングの古いスプリングが飛び出したようなソファーに寝起きしていた。
ヘレンはナディアの過去に起きた性虐待のこと、そして、ナディアの生い立ちについての一切を私に話そうとした。「ナディアがPTSDになったのは、私のせい・・・私の恋人だった男がナディアを強姦したから。」ヘレンはそういうと泣き出した。「私たち家族は、この男が犯した罪のすべてを法廷で裁かせようと、努力したの。私はまだ十代のナディアに法廷で証言させたくなかったから、手紙を書かせた。この男は、メキシコに戻ったから、私たちは二度と顔をあわせることも無くてすんだの。」
おばあちゃん子のトミーは祖母の家から託児所に通い、落ち着いた子どもらしい生活を取り戻していった。
ヘレンは私に言った。「ナディアがトミーを育てられなければ、私がトミーをいつかは養子にとろうと思ってる。トミーは私に一番なついてるし、私といれば大丈夫。必ずよい子に育っていくから。ナディアが妊娠していることは知ってるの。私は経済的にも体力的にもトミーのほかに新生児を育てるのは無理だと思う。ナディアは私をいっつも心配させる。」
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