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・・続き6

 ローランド判事が入廷した。司法長官補佐アイリーンの裁判所内のすべての出席者の紹介が終わると、判事はアリスの方をまっすぐ向いて尋ねた。「あなたは今日、自分の子どもたち3人の親としての権利をすべて放棄するためにここにいます。このことはとても、難しいことだと思います。あなたの長い人生の中でもおそらく、一番難しいことかもしれません。」アリスの泣きじゃくり赤く腫れあがった目が私のほうからも見て取れた。アリスは書類にサインした。彼女には年に2度の子どもたちとの面会が保障された。

 5月9日、裁判の翌日、私とキャサリンはサマンサをセラピスト(臨床心理士)の事務所に連れて行った。セラピストのジョーンの助けを借りて、私とキャサリンは、サマンサに裁判所での判決の内容を彼女にわかるようにつたえた。
 サマンサはほっとしたのか、小さな体すべてをソファの上にぶつけるようにして投げ出し、うつぶせになった。急に起き上がると「あたしほんとにアダプトされるんだ。ほんとなんだ。ほんとにそうなんだ。」と何度も叫んだ。そばかすだらけの色白の顔が上気してピンクに染まった。キャサリンがサマンサを抱きしめてはなさなかった。

毎日平均850人の子どもがフォスターケアに入ってくる
5月18日、シアトルの地方紙が一面でワシントンDCでのフォスターケアのデモンストレーションのようすを伝えている。全米で毎日平均、850人の子どもたちがフォスターケアに入ってくる。一週間を通じて毎日850体ずつの等身大の里子たちの写真をパネルに貼り付けワシントン・モニュメントの前にディスプレイするこのデモンストレーションには“フォーガットン・チルドレン”という題名がつけられ、7日後には約6000体のパネルが展示される予定。米国の里子人口は1980年からおよそ60パーセント増加した。全米では現在、52万人の里子が親以外の人間と生活しており、その里子人口の四分の一が2年から5年という長い期間をシステムなかで過ごしている。
 その現実をビジュアルに打ち出そうとしたのが、全米CASA連盟。30年前にシアトルで発足した里子の権利擁護のボランティアたちの団体だ。(6)

里親への感謝会と新しい家族としてのスタート
5月は“里親月間”なので、アメリカの各地で里親に関連した集まりや催し物がある。5月の最後の金曜日、エヴェレットの教会で里親たちのための夕食会が開かれた。この里親への感謝会は、地域の里親サポートの団体と児童保護局の共催で、毎年、初夏のイベントとして行なわれる。私はサマンサたち3人の子どものケースをアダプション(養子縁組)のソーシャルワーカーに引き渡すため、山積みの書類をまとめるのに時間がかかり、少し遅れてパーティー会場に駆けつけた。ソーシャルワーカーたちが、テーブルをセットしたり、参加者へのギフトを用意したり、里親たちが連れてきた里子や実子との遊び相手をしている。 

  
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