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・・続き4

里親たちの養育の困難さと里子たちの苦悩
 サマンサとジャックとアンソニーはそれぞれ里親の家庭で育っていった。週一回の母親との訪問には監督がつき、訪問の内容は詳しく記録されていった。一番下のアンソニーは、白人のアリスと黒人の父親の間の子どもで、生後4ヶ月で母から引き離され、ひとりの里親にずっと育て上げられたために、ほかには誰も親と呼ぶ人がいなかった。アンソニーは重度の知能障害をかかえており、検査の結果、おそらく一生、特別な保護とサービスを要するだろうということがわかっていた。アンソニーの里親のリンダは、自分の子どもを2人育て上げた40代の黒人のひとり親。アンソニーのことだけが生きがいのような人だ。今ふり返れば、リンダが、この3年間、きょうだい5人のアリスの大家族をばらばらにならないようにつなげてきたのだった。

 近年、実親と里親の関係をもっと緊密なものにしようという工夫や実践が盛んになってきたとはいえ、里親は実親との接触を避ける傾向は続く。リンダは自分から率先して、アンソニーだけではなく、ジャックもサマンサも母親のかようエヴェレットの下町の小さな教会に連れて行き、母の日やクリスマスに子どもたちを母親と合わせて、写真撮影をさせた。こんなにオープンに実親とのつながりを探っていく里親を私はめずらしいと思い、また感心しながら見守ってきたのだ。

 ジャックとサマンサは、ふたりともADHD(注意欠陥・多動性障害)の診断を受けていて行動的にも難しく、三年間のあいだに、ジャックは二度、サマンサは五度、里親をかわっている。学習障害を持つジャックをこの一年育ててきた里親は看護婦のキャサリンと会計士のヘンリー。この 50代のベテランの里親夫婦は、すでに二人の男の子を養子にとっていた。ジャックは、この里親家族に引き取られた去年の春、年上の里兄弟と衝突し始めた。しつけの容易ではないジャックに里親たちは苦戦し、私はこの家族のためにリテンション・プログラム(5)を使うことにした。

 専門のセラピストが、里親の家庭を訪問し、家族セラピーとペアレンティングの指導を2ヶ月続けた。ジャックはしだいにキャサリンたちの家庭に溶け込んでいったが、そのころ7歳になろうとするサマンサはまだ、里親を転々としていた。サマンサは四歳で里子になったときから、ノンストップのかんしゃく持ちとして、里親への措置の難しい子どもだった。夜尿症や大便失禁(遺糞症)も繰り返した記録がある。キャサリンとヘンリーは去年のクリスマス、どこにも行き場の無くなったサマンサを受け入れた。毎晩一時間かけて、ジャックとサマンサに本を読み続け、里親たちはこの2人の里子との絆を築こうとしてきた。

 アリスはこの3年間に2度の精神鑑定を受けたが、結果は両方とも、彼女の親としての根本的な能力の欠損を明白にしている。知能指数は74で、知能障害のため、現在12歳と9歳の年長のしっかりした女の子たちはかろうじて育てることができても、下のこどもたち3人の精神面、発達面のニーズを満たすことは困難だろうというのが専門家たちの見解だった。彼らは、母親が自ら親権を放棄することを薦めた。そして我々児童保護局は、子どもたちのパーマネンシーを確立するために、アダプション(養子縁組)の方向にこのケースを進めるべきだとして、裁判所に書類を提出していた。3年前に、年上の2人の女の子たちを母親に戻し、大事無く時間が過ぎた今、児童保護局がこの裁判を勝ち取るチャンスは五分五分だといわれていた。 
  
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