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・・続き5
一方、この数ヶ月、母親のアリスは親権を放棄して里親とのオープン・アダプションの合意書にサインするのか、それとも子どもたちを自分のもとに戻すために、この5月7日の裁判を公判の場としてたたかうのか、意思をあらわにしなかった。親権を放棄することを決めれば、オープン・アダプションの合意書にのっとって年に1回から2回の子どもたちとの訪問が保障される。親権を放棄せず公判で自分が負ければ、アリスは二度と子どもたちに会えなくなる。
この宙ぶらりんな、どっちつかずの状態を不安定な気持ちで受け止めたのは実親のアリスだけではなかった。ジャックとサマンサの里親のキャサリンとヘンリーは、この数ヶ月、5月の裁判の結果、2人の子どもをいっぺんに失うかもしれない、というストレスから仕事も手につかないような日々を送っていた。裁判の日取りが2度目に延期になった今年の1月、キャサリンは心労でたおれ、数日間入院した。病院を見舞った私にキャサリンは言った。
「いま、一番“宙ぶらりん”なのは私でも夫のヘンリーでもないっていうことを児童保護局は理解しないとだめだと思います。親権を剥奪する裁判がこんなに遅れているのはもろもろのシステム上の理由なのかもしれないけど、子どもたち、とくに年上のサマンサはもう感情的にもボロボロで、自分が母親のところに戻るのか、それとも私たち家族の一員として一生過ごすのか、一日も早くわかりたくて、それがわからなくて・・・もしも、この5月の裁判がもう一度延期されるようなことがあれば、私たち家族として成り立たなくなると思う。その時はサマンサとジャックを手放すときかもしれない、と本気で思っています」。
裁判の前日に親権を放棄する事を決断した母親
この5月7日の裁判で、母親が公判を求めずに親権を放棄する、ということがわかったのは裁判当日の前日だった。私はそれまでは公判に至ったときのことを考慮に入れて、アリスの子どもたちに関する17冊のファイルをすべて読むためにオフィスを2日間はなれていた。母親が公判に持ち込まずに自ら親権を放棄すると決めたのは、弁護人に説得されてのことだったのだろう。6人目の子どもを妊娠しているアリスは、4月に2度目の精神鑑定の結果が出たときから、親権を放棄すること考え始めたらしかった。
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