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・・続き3

 長女が2歳になった1997年から5人の子が母親から引き離される2005年までの8年間に、アリスに対して18件の虐待告知レポートが記録されている。ほとんどのレポートが、食料が無く、おなかをすかした子どもたちが親の監督なしに通りをうろうろ歩いているなど、いわゆるネグレクトの告知だが、3人の女の子たちが、母親の家に出入りしていた無数の男たちの何人かに性的虐待を受けていた可能性も伝えている。

 2005年5月、子どもたちが母親から引き離され、法廷関与にいたった隣人の告知レポートを何度となく読んだため、私はその内容をほとんど記憶していた。
“母親のアパートは不衛生で散らかり放題、腐った食べ物や糞尿がカーペットや壁にこびりついていて、キッチンは汚れた食器が山積み。幼児のひとりが、トイレから手で水をすくってのんでいた。上の2人の女の子は、しらみがひどく、もう2週間も学校に通っていない。緊急レスポンスのソーシャルワーカーが子どもの数をかぞえと、いちばん下のアンソニーの姿が無いことがわかる。母親は、生後4ヶ月のアンソニーがどこにいるのか問いつめられると「たぶん隣の祖母の家だろう」と答える。ソーシャルワーカーが目の前のソファの上の毛布をめくると、ぐったりと寝入ったアンソニーがそこにいた。”

 この告知レポートの2ヶ月後、上の2人の女の子たちは、里親から母親アリスの元に戻され、アリスは、ファミリー・プレザベーション・サービス(FPS)という集中的な家庭内サポートを6ヶ月にわたって受ける。専門のサポート・ワーカーがアリスのアパートに週に二度は訪問して、家の掃除、しらみの駆除、家計簿の付け方をおしえ、子どもの安全確保の手ほどきをし、買い物やアポイントメントにも同行した。

 知能障害があるとはいえ、アリスは、サポート・ワーカーの指導には順調に反応し、半年後にはようやくアパートは常に清潔を保ち、2人の年上の子どもたちは毎日学校に通うようになった。母親にとって特に難しかったのは、家に出入りするたくさんの人間をシャットアウトすることだった。児童保護局は上の2人の女の子たちとほとんど年齢の変わらないサマンサを母の元に戻そうと計画し、実験的にサマンサを週一度、母のアパートに訪問させた。サマンサが、母の家に何人かの男性が出入りしていることを通告したため、母親が児童保護局との取り決めを守らなかったとして、この訪問は停止になった。

 アリスは、下の男の子たち、ジャックとアンソニーと一緒にペアレンティング・トレーナーから修行を受けた。12週間にわたるこの修行の後、母親には小さな子どもたちのしつけ方を体得はできても、その場その場の状況や子どもたちのニーズにしつけのスキルを応用できる能力に欠けている、とトレーナーから判断され修行は打ち切りになった。
  

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