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  Dawn Farmは、1973年2人の薬物依存症当事者の共同出資により、アルコール薬物依存症治療共同体としてミシガン州に設立された。現在ではその効果を認められ、行政や地域と連携した実に多様なプログラムを展開し、多くの回復の機会を提供している。  
 Dawn Farm の大部分はリカバリング・スタッフによって運営されており、プログラムの中で自らの回復の経験が分かち合われることでその効果が高められている。
 Dawn Farmで大切にしていることは、「治療と回復は同じではない。治療機関は回復の場へと橋渡しするのが役割だ」ということだった。私は衝撃を受けた、「とてもかなわない」。

 当事者として回復した経験を持ち、さらに援助職としての知識や技術も兼ね備えている。そして、「自分たちが受けてきたものを返したい」という確かな信念と情熱が彼らを動かしていた。そんなリカバリング・スタッフたちが活躍し大きな効果をもたらし、多くの回復の機会を提供している。
 なにより、組織人としての役割と援助者としての役割が一致した環境の中で、いきいきと働いている姿が印象的だった。「彼らに少しでも近づきたい」と思った。それから私は大学院へ進学することを決意した。援助者として当事者の回復を支援することを第一の目的にしながらも、組織として成立しているその方法を知りたかった。そして、彼らのように多くの回復の機会を提供できる援助者になりたかった。

治療共同体AMITYでの対等な関係
大学院に進学し治療共同体の研究を始め、Dawn Farmでの研修ツアーに参加する機会を得た。実際に目で見たDawn Farmは、想像をはるかに越え、地域や行政と連携した実に広範囲な取り組みがされていた。学ぶべき点は多々あったが、日本の現状とあまりに違いすぎて何から手をつけていいのか戸惑っていた。

 そんな時、思いがけず治療共同体AMITYでの研修ツアーに参加することとなった。AMITYを訪れることで、治療共同体がどのようなものなのか、何を大切にしているのか
身をもって実感することができた。それが、当事者と援助者の対等な関係だった。

 AMITY(ラテン語で友愛・友情を意味する)は1981年に設立され、アメリカのアリゾナ州・カリフォルニア州において、政府からの助成金や基金などによって運営されている非営利団体だ。アルコール・薬物依存症者、受刑者、HIV感染者、他のプログラムで排除された人、虐待の被害者・加害者などを対象に共同生活プログラム、刑務所内プログラムを行っている。

 共同生活プログラムでは大自然に恵まれた広大な環境の中、入所者によって彩られた建
物やあらゆる文化や宗教を超えた空間に、常時50〜140名前後の入所者が共同生活を送っている。単身での入所が中心だが、母子専用の施設も設けられている。滞在期間は49日、90日、7ヶ月、12ヶ月とされ、入所経路は行政機関や家族や友人に連れてこられたり、軽微な犯罪によって裁判所から刑務所での服役かAMITYでの治療か選択を委ねられたり、本人の希望によって来るケースなどがある。共同生活を基盤に多様なグループワークの中で回復が目指される。

 刑務所内プログラムでは、現在カリフォルニア州の3つの男性刑務所とニューメキシコ
州の短期刑務所内部で行われているもので、アルコールや薬物などアディクションの問題を抱える受刑者達を対象にグループワークを行っている。その中でも終身刑の受刑者達がAMITYのスタッフとして活躍している。
 AMITYに到着すると、スチューデントと呼ばれる入所者たちが笑顔で迎えてくれた。AMITYでは当事者のことを、クライエントではなく自ら学ぶ者としてスチューデントと呼ぶ。このようにAMITYの実践のいたるところに対等な関係を目指す理念がちりばめられている。

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