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・・続き2

 治療プログラムを実行することの許可はおりたものの、立ち上げ当初はごく少数の有志の協力しか得られなかった。
アルコール依存症を筆頭にさまざまなアディクションの問題を抱える当事者たちは、医療スタッフの中でも「治らない、やっかいな患者」として扱われることが多い。そのような中で当事者たちも自分たちの回復を信じることができず、入退院を繰り返し、身体的な疾患や事故などにより亡くなる場合が多く、アルコール依存症者の平均年齢は51歳とも言われる厳しい状況にある。

 組織から課せられる仕事をこなしながら、プログラムに取り組み、時間的にも体力的にも精神的にも常に限界を超えていた。それでも私を支えていたのは「父と同じようにアルコール依存症で亡くなる人を一人でも助けたい」という思いだった。
組織から与えられる仕事は病院の運営を維持するための仕事だ。もちろん大切な仕事だし間違ってはいない。しかし、私は患者さんが回復するための仕事がしたかった。組織人としての役割と援助者としての役割の間でいつも葛藤していた。

 時間的にも体力的にも精神的にも限界を超えたアルコール治療プログラムへの取り組みは、援助者としての自分を保つ最後の砦だった。
このような状況の中、プログラムに取り組み、少しずつ回復へとつながる当事者が生まれ、医療スタッフの中にも「回復する病気」という認識が芽生えるようになっていった。
しかし、私の中には漠然とした疑問があった。「これでいいのだろうか?確かに回復につながった人はいる。それは私たちの希望だ。でも、その何倍もの人は回復していない。何か他に方法があるのではないだろうか・・・」

治療共同体との出会い
 こんな疑問を抱え続けた5年目に、私は治療共同体に出会った。東京で開かれたある研修にアメリカの治療共同体Dawn Farmのリカバリング・スタッフが来日し、治療共同体の実践、理念、その方法について講義を行った。

 リカバリング・スタッフとは、以前は自らがアディクションの問題を抱えていた当事者であり、現在では回復し援助者として働くスタッフのことである。アメリカのアディクション領域ではリカバリング・スタッフがこのように自ら回復していく姿を示していく役割の効果が高く認められており、非常に重要な位置づけとされている。
 一方日本では、リカバリング・スタッフによって運営される中間施設が医療機関などの専門機関とは異なる新たな取り組みを展開しているが、アメリカほど重要な位置づけとされていない現状にある。


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