第1 回 第2 回 第3回 第4回 第5回
1   2   3   4   5   6   7   8   9
 
・・続き9

 現在、全米50州のうち16州が、子どもたちの眼前で母親に暴力を与える父親の刑罰を重くしている。インディアナ州では、DVの罪で受刑した父親の子どもとの面会は、1年から、場合によっては2年までの間、他者の監視を強制させられる。

 家庭内暴力を目撃すること自体を、児童虐待の法律上の定義に加えた州が2つある。ひとつはアラスカ州で、DV被害者の擁護団体と児童保護局,そして司法と自治体にかかわる人間がひとつになって、相互の目的が達せられるような法令を築いたことから、成功に導いた。もうひとつはミネソタ州だが、このような各団体の歩み寄りや協力はなかった。そのため、単に児童虐待の定義に家庭内暴力を含めることによって、児童保護局は倍増した児童虐待通報に対応し、ケースを調査することが困難になり、1999年に成立した新しい州法は翌年、撤廃された。

 そして一番新しいアプローチは、法律を変えることなく地域のレベルでドメスティック・バイオレンスと児童虐待のサービスのコーディネーションを図り、女性と子どものリスクを同時になくしてゆこうという動きである。火付け役となったのが、連邦政府がスポンサーの「グリーンブック・イニシアティブ」というプロジェクトだ。全米の数か所が、政府の試験プロジェクト地域として選ばれている。

 このマニュアルには、DV被害者支援センター、児童保護局,裁判所の3者がお互いに連絡・協力し合って、ドメスティック・バイオレンスのケースひとつひとつの調査・判定を行い、そのケースに見合った援助プランを立て、早急に家族を危機から救う方法が、詳しい手順を踏んで提示されている。

 どんなにサービスや支援を与えようとしても、それに対応しない母親、子どもを守ろうとしない母親はいる。子どもの安全を第一に考える立場から、そうした家庭からは子どもは保護されなければならない。私はここに、ドリスというひとりの母親を例にとってDVと子どもの虐待のソーシャルワークの実践を記録したわけだが、彼女のとった選択や行動は、おそらくめずらしいのだと思う。
 ほとんどの母親は、十分な社会的資源(リソース)と支援があれば、子どもを守ろうとする。研究によって、ドメスティック・バイオレンスの中に育っても、母親との絆が強く結ばれていた子どもたちの精神的なダメージは少なく、成長に困難の少ないこともわかっている。



 8月27日、出勤してコンピューターを立ち上げると、「パーマネンシー・イズ・ベスト・フォー・チルドレン・エブリディ」という題目のメールが入っている。エヴェレット児童保護局のマネージャーから、すべてのソーシャルワーカーへの報告だ。来年2月までに、里子350人を親元にかえすか、またはアダプションなどの永久的な子どもの居場所を確立するために、事務所に数人のサポート・スタッフを加えて、ワーカーの手助けをすることになった。

 8月28日、あと数日で新学期が始まる。エヴェレットの教会がスポンサーになって、市の中心にある大きな公園でのランチ・パーティーがあった。参加者の中には里親や親族里親たちの姿もある。子どもたちは大きなホットドックをほおばったり、友達とゲームをしたりして、長い夏休み最後の休日を過ごした。集まったすべての子どもたちに、ノートやバックパック、クレヨンやペンなどの文具が無料で支給された。


*PCIT(ペアレント・チャイルド・インテラクティブ・セラピー)は研究によってその効果が認められている治療法。 ワシントン州ではクライアントである里子とその肉親、そして里親などのケアギバーに広く使われて、成果が上がっているセラピー。 子どもと親の間にポジティブなコミュニケーションをつくり、子どもの難しい行動を親が具体的なしつけのスキルを習いながら補正していく。セラピストはPCITのために特別な訓練を受けている。

(了)
1   2   3   4   5   6   7   8   9
 
   
 
COPYRIGHT(C)2006 ORANGE RIBBON-NET & THE ANNE FUNDS PROJECT ALL RIGHTS RESERVED.