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・・続き6

 ドリスへの法廷命令のひとつは、メンタルヘルスのセラピストによる治療だった。彼女は、セラピストのオフィスが遠くて通えない、などといろいろな理由をあげて、キャンセルを繰り返していた。私は、DVと加害者のことに詳しくエヴェレットの市内にオフィスを構えているベス・ロバーツというセラピストに連絡をとって、ドリスがすぐに治療を始められるように段取りをととのえた。

 ベスのセラピーの最初の焦点はドリスの過去の、そして現在の男性関係について、そしてDVのメカニズムについてだった。ベスは、ドリスの依存的な性格について深くほりさげるのと同時に、いま、彼女が一日も早く自立する道を啓くためにできる具体的なこと、例えば福祉局に行き仕事やアパートを探したりすることにも、ひとつひとつていねいな指導を与えた。

 ドリスの警察署への暴行通知によってジェフは逮捕され、そのころすでに拘置所に監禁されていた。イジーとハンナのふたりの子どもの世話がなくなって独り身になったドリスは、ジェフの母親の実家に転がり込んで、仕事もせずに暮らしていた。セラピストのベスは、ドリスに、「ジェフが刑期を終えて出所したら、いったいどこでどうやって暮らしていくつもりですか? DVシェルターに空きができたから、直ちに入所するよう私が手続きしてあげます。」と言った。ドリスは「湿疹ができた」と言ってシェルターに住むことを躊躇した。私はドリスに、DVシェルターに入れば仲間もいるし、グループ治療も受けられること、そして就職や住居の確保などの大切なサービスへの道も啓かれることを説明して入所を納得させようとした。

 セラピストのベスから私に電話が入った。「ドリスはジェフの子を身ごもっています。彼女は、うわべではセラピーの内容を把握しているようには見せかけていても、自分と子どもたちを守るための行動にはなにも踏み出していないです。あなたも私もこれだけ彼女を助けてあげようとしているのに、ジェフの母親と同居してます。セラピーにはセラピストとの信頼関係が築けなければ、そして母親自身に“変わりたい、子どもたちを取り戻したい”という意志がなければ、なにを与えても、無理だと思います。」ベスはそう言って電話を切った。

 ドリスはそれから、イジーとハンナとの訪問に遅れて来たり、子どもたちにおやつを買うお金が無い、などと言っては訪問をキャンセルした。私は時々、ドリスの子どもたちとの訪問を観察した。そのころ、専門家のアセスメントを受けたイジーにはADHDなどの診断が何も無いことがわかっていた。そんなイジーに対して少しでも自分の言うことをきかないと、ドリスは怒鳴り散した。母親のその大きな怒鳴り声は児童保護局の訪問室に隣接する障害者事務所にも響き渡った。子どもの安全を案じた事務所のスタッフが、児童保護局に電話をかけてきた


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