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・・続き8

〈DVが子どもに与える影響とアメリカのこれからの課題〉
 DVが子どもの成長に与える影響はさまざまだ。幼児は、言語や運動機能の遅れをきたし、小中学生の子どもたちは、精神不安定やうつ症状にさいなまれる。社会的にも引きこもりがちになり、家庭内に暴力があることを隠そうとする。両親のあいだに暴力が起きるのは、自分のせいかもしれないと自らを責め、親たちの面倒まで見始める子どもがいる。

 子どもたちは、いつ起こるともわからない暴力におびえる”恐怖の環境“の中から逃げ出せないまま、大人たちのその時々の感情や要求に、自分を恐る恐る合わせて生きていくようになる。 
 
 子どもが親たちの暴力を見て育つと、問題を平和的に、論理的に解決するすべを学ばないままに育つ。どんな場合にも暴力を行使して、困難や問題を解決するようになる。暴力を体験した男の子たちは、やがて家庭内に起こるすべての暴力が原因で、十代になってから非行や犯罪に身を染めていく可能性が非常に高い。家庭内の暴力を見て育った女の子は、統計的にも、十代の妊娠率、飲酒や麻薬の使用率、自殺行為率が高く、付き合っている男の子によるデートDVに巻きこまれる可能性も高くなる。

 日本では2004年に家庭内暴力防止法が制定された。アメリカでは、80年代から各地にDVのシェルターなどが築かれ、草の根運動に端を発した支援活動が展開された。
1994年に「女性に対する暴力防止法案(VAWAViolence Against Women Act)」が可決したことにより、加害者に対する法的な制裁が厳しくなった。今年、15年目をマークするこの画期的な法案は、フェミニストを中心としたたくさんの支持者によって開拓、改善され続けてきた。

 当初から、連邦政府が16億ドルの予算をDV通報に対する検察の事件調査と訴訟追行に注いだことにより、1993年から2008年までの間に女性に対する家庭内暴力の件数は53パーセントの減少を見た。

 全米各地にホットラインやDV被害者のシェルター施設、支援団体が設けられた。「ドメスティック・バイオレンス・イズ・ア・クライム DVは犯罪」というスローガンとともに、人々のDVに対する意識も高まり、女性と子どもの保護のための暴力防止と、トラウマの治療にも進歩が見られるようになった。15年の間にVAWAの予算の内容にもたくさんの変化が見られた。デーティング・バイオレンス、移民の救済、そして、近年ではDVサバイバーへの経済的な自立援助のための予算編成がその例だ。
 
 そんなふうに、DV対策に長年取り組んできたアメリカ。だが、子どもの虐待の犠牲者とDVの被害者をどのようにして同時に保護し、支えていくかという課題にたいする取組みには遅れをとってきた。

 母親が暴力の犠牲になっている家庭では、子どもも同時に肉体的、精神的、ときには性的暴力の犠牲になっていることが明白であるにもかかわらず、DV被害者支援センターなどの女性の擁護団体と、児童保護局は、最近まで協力的に仕事をしてこなかった。児童虐待とDVは「家庭内の弱者に安全をもたらす」という同じ目標を掲げたにもかかわらず、違った法律と予算の枠組みのシステムの中を歩むことによって、ふたつの道を歩んできた。

 児童保護局は、行きとどいた調査無しに、ネグレクトとして子どもを家庭から連れ去り、緊急シェルター施設や里親に措置しているという批判が高まった。子どもの保護が目的の児童保護局が「母親は子どもを家庭内暴力から守れない」と決めつけて、守る意志のある母親から奪い取ることは、暴力の犠牲者である母親を再び犠牲にしているというのが、DV被害者支援団体の見解だった。
 その反面、DV被害者支援団体は、母親と子どもたちをシェルターなどに保護した後は、児童保護局の調査に協力的ではないとの批判もあった。母親だけでなく、子どもたちをどうやって家庭内暴力から守るかということが、この数年、盛んに論議されるようになった。

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