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・・続き4

〈奇妙な行動〉
 そんな矢先、母親は、何を考えたのか、子どもたちをふたりとも、シアトルにある私立のアダプション・エージェンシーに連れて行った。ステーシーはそのことをエージェンシーからの突然の電話で知った。「ドリス・メイナードという母親が小さな男の子と女の子をつれて、うちのエージェンシーに養子縁組の手続きをすると言って来ているんですけれど、この子たちの実の父親に連絡をとりたいんで、彼らの電話番号を至急教えてください。」という内容の電話だった。

 父親の合意を得なければ、エージェンシーは子どもたちを養子としてひき取れないのだった。突然連絡をうけた父親のトーマスとサムはエージェンシーに息せき切って飛び込んで来た。ふたりとも「養子縁組なんてとんでもない。僕らの子どもたちは赤の他人には渡しません。」と言った。子どもたちは、再び母親のもとにもどされた。

 ソーシャルワーカーのステーシーは、この母親の奇妙な行動の後、児童保護局で、緊急家族会議をすることに決め、親たちや親族に連絡をとった。この会議では、子どもたちは、いったんハンナの父方の祖母の家にあずけることを、みんなの合意の上に決められた。母親のドリスと、ふたりの父親には現在、子どもたちを安全に育てることができない、というのが会議の参加者たちの意見だった。ドリスが、ジェフという“危険な男”と、一緒に住んではいないが、密接な関係を続けていることが、参加者にはいちばん気がかりな点だった。

 イジーの実父トーマスは、自分が15歳のとき、小さな少女を強姦してそのための治療を受けなければならなかったことを打ち明けた。ハンナの実父サムも、過去に関係のあった女性とのあいだにふたりの子どもがいるが、その子たちを育てられず生き別れになってしまったことを会議の中で話した。現在は手に職もなく、住む家も無いので、知り合いの家に居候している、と言った。

 この会議の中で、母親は「暴力的なジェフに対して、すぐに接近禁止令を確保するための法的手続きを取る」と宣言した。参加者たちは母親に、DVの支援グループに1週間以内に通い始めることをすすめた。

 1週間が過ぎた。母親のドリスは、家族会議でとり決められた約束事を実行に移す気配がなかった。ジェフとは別れずにいる様子だった。ステーシーはドリスと再び向きあう。「あなたが、家族会議での約束事を真剣にうけとめないのなら、私たち児童保護局はこのケースを法廷に持ち出すこと以外、手の打ちようがありません。」と言った。母親は、意外にも、それでもかまわない、という態度をとった。 

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