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第六回目のテーマは「生きていくための術」
教育ジャーナリストの青木 悦さんとの対話。
   
・・続き6
ある教師と出会った中学時代
箱 崎 : 著書で書かれているとてもいい先生との出会いは、中学へ入ってすぐですか?
青 木: そうなんです。その先生との出会いは大きかったです。
箱 崎 : その先生は担任の先生ですか?
青 木: いえ、違います。英語の先生だったんですけどね、吃音がすごい先生で、それで語学をやっているっていうんだから考えたら無理な話なんですけど、英語だとあんまりどもらないでしゃべれるんですよ。ところが、日本語でそれを翻訳するとなると、どもってしまって。もう、男の子たちからは、それこそ差別語ですけど、「どもり、どもり、どもっちょ」とか、からかわれていて。職員室で私の担任と机を並べていたんですよ。情報が入っていたんじゃないかと思うですけどね。
箱 崎: それで中学生の青木さんに声をかけてくれるようになったんですね。
青 木: はい、その先生が励ましてくれたんですよね。それは本当に意外でした。その先生が私をそんなふうに見ててくれるなんて思ってもみなかったです。
箱 崎: でも、何か通じるものがあったんですよね。
青 木: でしょうかね、何かね。
箱 崎: 生活も落ち着いてきたのですか?
青 木: でしょうかね、何かね。
箱 崎: 何かきっかけもなく、自然に?
青 木:

うん、おそらく一人で歩いているときにいつも声をかけてくれたんで、一人のときの顔とみんなでワイワイいるときの私の顔が、かなり違っていたんだと思うんですよ。一人のときは、もう、今日屋上から飛び下りてやろうとか、本当にそんなことばっかり考えていたんですよ。今思うときっとすごい顔していたと思うんです。だから、最初は、その先生は私を見てすごく変だと思ってくれたんじゃないかなって。そうなると、あのころの先生たちって、職員室でよくしゃべっていましたから、担任の先生から多少の聞いて知ってくれていたんだろうなとかね、後で想像できるわけで…。
ただ、その私に声をかけてくれた先生は、その後、ほかの子どもたちからも「すごく助けられた」という声が届くんですよ。

箱 崎: そうでしたか。
青 木: そういう先生だったんですね。
箱 崎: 不安そうな、寂しそうな表情をしている子たちに、一人ではなく何人かに声をかけていたのですね。
青 木: そうなんです。特に不良と言われて暴れている子に親身に向き合って、少年院まで訪ねて行ったり、そういう先生だったんですね。でも、その頃は知らなかったんですよ、中学へ入ったばっかりなんで。そこで初めて出会った先生だったし。
箱 崎: でも、具体的にはお話はするところまではいかないわけですね。
青 木: はい。会ったときは1年生ですから。私は2年、3年とだんだん元気になっていくんです。3年生のときは生徒会長をやっていますからね
箱 崎: すごいですね(笑)。
青 木: すごいですよ。だから、この先生と出会ってからの自信を取り戻していく過程、まだ本物の自信じゃないんですけど、結構勉強もそこそこできましたし、ちょっとしんどい子の気持ちも想像がつくし、今まで自分が苦労してきたことが、ある種逆に作用し始めて人気者になっていった過程があったんです。
それで生徒会長までやるようになったころには、その先生と会うと冗談を言ったりね、そういう感じにもなっていたんですよ。
箱 崎: すごいですね。その先生は青木さんに「がんばってるね」と言うのを土佐弁で言われていたとか。
青 木: そうなんです。「ようがんばりゆう」って言うんですけどね。中村だと、「ようがんばりよる」になるんですよ。ところが高知市ですと、「ようがんばりゆう」になるんですよね。だから、その「ゆう」という語尾が私にはすごく新鮮で。
箱 崎: 温かい感じですね。そういうふうにいつも自分のことを心にかけてくれている方がいるっていうことで、元気になっていったのですね。
青 木: やっぱり完璧じゃないですけど、子どもってすごいですね、どん底にいたのが、結構みんなとほとんど同じようなところには立てたぐらいの気になるんですよね。ところが、そのころのクラスメートに言わせると、「私は優等生だった」と。「勉強もよくできて、みんなのお世話もできて、先生からも好かれていて」って。私が思っていたのと、こんなに違う評価なんです。だから、そのぐらい、どっちが正しいか分からないけれど、自分っていうのがとんでもなくどうしようもないという思いをずっと引きずっていくんですよね。

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