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スコット: |
先程話したように、私は小さい頃から、自分の仕事は、暴力から弟や妹を守ることだと思ってきました。最初の頃は、部屋にとどめておいて、弟たちのために食事を作ってあげたりしていた。ある日、母親が弟にすごく腹を立てているときがあって、バスタブにお湯をはって、そのお湯に弟の首をつっこんだ。ほとんど溺れるぐらいまでやる。父親は警察官で、6つの電池が入るような長い懐中電灯を持っていた。そのときに私はその懐中電灯をもってきて、母親の頭をそれでかなり強く叩いた。そうしたら、私を見て、「何をやっているの、こうしなくちゃいけないのよ」と言い、私は「弟を離せ」と母親に叫んだ。すると今度は母親の怒りが私に向けられた。その頃私はスポーツをしていのたで、筋肉には自信があった。弟を守ろうと思って鍛えていた。それで母親を殴った。弟への虐待をやめさせるために、母親を殴った。その後で、後悔の気持ちがわいてきました。そのときの恥の気持ちはなかなか描写できないぐらい。 |
箱 崎 : |
私も似た子どものときに母を殴る酒に酔った父を突き飛ばして、罪悪感を感じた体験があります。スコットさんのそのときの気持ち、よくわかります。 |
スコット: |
はい。弟を守ることで、弟は殴られないですんだ。でもそれによって、自分の問題、DVの問題、怒りのコントロールがうまくできない、という問題が出てきました。そのときは、13歳だったと思うけれど、その後、大人になってから、私自身のDVの加害者としての問題が出てきたのです。成長と共に、私は自分は愛されない人間というのが強化されていった。それを止める唯一の方法は、自分が他者に暴力を振るうことでした。 |
箱 崎 : |
暴力を受けた子どもが成長すると、暴力を振るう側になることがあるという、暴力のサイクルですね。 |
スコット: |
はい。依存症と暴力は大きな問題です。それは日本でも大きな問題だと思います。それにちゃんと向き合わないと、津波が来る。もっともっと大きな津波が。 |
箱 崎 : |
私もそう思います。日本でも、DVはとても増えて大きな問題になっています。依存症にさらされた子どもにもっと注目してほしいですね。津波はどうすれば予防できますか? |
スコット: |
自分の痛みと向き合って、アサーティブ、つまり、相手に対して、暴力を振るわず、きちんと自分の気持ちや意見を言語化することです。アサーティブ(注1)になることで、満たされることを学ばなくてはいけない。それに加えて依存しない生き方を選ぶことです。 |
箱 崎 : |
日本人は特に苦手ですが、アサーティブという気持ちを表現するコミュニケーションは大切ですね。 |
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箱 崎 : |
そういう状況の中で、スコットが回復していったのには、いろんな知識や人との出会いがあったと思います。日本では回復の道しるべが、一般的にはなかなか見えてきませんが。 |
スコット: |
わかります。でも、進めていきたいですね。AA(注2)というのは、2人のアルコール依存症者が出会ったところから始まっているけれど、一人は、株の売買人で、一人は医者だった。一人のアルコール依存症者が一人のアルコール依存症者に、「今日は本当に飲みそうだ。だめだ」と言い、もう一人が「よくわかる」ところから始まる。それまでは、ヘルプというのは、アルコール依存症者にはなかった。一人の人がもう一人の人に、話を持っていったところから話が始まった。 |
箱 崎 : |
はい、分かちあいの場の始まりですね。 |
スコット: |
それから、マリーアレン、という女性がいます。マリーアレンの父親はしょっちゅう、マリーアレンのことを殴っていた。近くに住んでいた警官がそのことに気づいていた。でもその頃アメリカでは、子ども虐待防止法という法律はなかったから、黙っていた。ある夜、マリーアレンが17回、ハサミで刺された。法律はなかったけれど、警察は介入して、父親を逮捕した。そのときに、逮捕の根拠として使った法律は、動物愛護法だった。
つまり、犬や馬を刺してはいけない、という法律はあったけれど、親が自分の子どもを刺してはいけない、という法律はまだなかった。でも自分の娘を17回刺したことを、動物愛護法を根拠に、逮捕しなくてはいけなかった。それが始まりで、アメリカには、子ども虐待の問題があることがわかった。マリーアレンは、動物として、裁判所に出頭したのです。アメリカでは勇気あるこの警官がそれでヒーローになった。本来ならやるべき仕事を彼が初めてしたのです。この警官は一人で行った。
そのようにして、子ども虐待防止が始まった。1000人集まらなくてもいい。一人でいい。自分がどの立場に立つか、一人ひとりが決める。そこからしか、始めることはできない。AAの場合は2人でよかった。一人の学校の先生、一人のナース、一人の医師、それでいい。そこからしか始められないと思う。 |