箱 崎 : |
でももともと持っていても、そういう環境にいなければ発病しないわけですよね。 |
竹 内 : |
遺伝子はあっても発病しないで終わる病気はたくさんありますよ。アメリカでは、かなりはっきり、遺伝だといっています。フォード元大統領の妻でアルコール依存症者のべティ・フォードが書いた『依存症から回復した大統領夫人』に国立のアルコール乱用、依存研究所の見解を引用して、書いていますよ。遺伝だから、自助グループがものすごく必要なんです。飲まない環境を作らなくてはいけない。いったん発病したら、アルコール依存症は飲みながらの自然治癒はない。過剰使用で脳に障害が起こったわけですから、それが少ない量ならいいということにはならない。 |
箱 崎 : |
感情障害ということで、アルコホリックの男性は、母親を求めているというのは、魂の渇きがあるということなんでしょうか? |
竹 内
: |
遺伝子はそこまで働いていない。たとえば、その遺伝子があるから、飲酒させるわけではない。遺伝子が飲ませるわけではない。飲んでから遺伝子がオンされる。オンされていないオフの遺伝子がある。だけど、飲むことによって遺伝子が次々とオンされていきます。遺伝子で代表的なのは、アルデヒドが分解される酵素の遺伝子です。われわれの体にアルコールを入れますでしょ。胃から小腸を通って肝臓にいく。アルコールから分解されて、アルデヒドになる。アルデヒドが分解されて酢酸になる。酢酸が分解されて炭酸ガスが水になる。それで体外に出る。アルデヒドが、効率よく遺伝子によっては分解される。アルデヒドが溜まると不快になる。気持ち悪くなる。二日酔いとかみんなそう。効率良く分解されていくので、アルコールが残らない。それが遺伝子の働きなんです。1型と2型の遺伝子の酵素があって、特に2型に、アクティブと、イナクティブ、あるいは全然ないタイプがあって、日本人の48パーセントは、これに属する。日本人の48パーセントは飲めない。初飲で赤くなる人は、飲めない人なんです。関連遺伝子の中で代表的な遺伝子です。飲める人と飲めない人がいる。でもアルコール依存症は、飲めるんです。遺伝子が働いてくれるので。だから大量に飲めるんです。 |
箱 崎 : |
そういう遺伝子があって、アルコールに依存症になっていくというのは・・・。 |
竹 内 : |
飲めるから依存症になるんです。どんどん飲めるからコントロールがきかなくなる。それに心理的な問題が加わってくるわけです。ベースとしてはアルコールは体の問題です。たくさん飲むことによって、脳の神経のネットワークが変わってきます。変わってくるのも、機能的な変化のステージと、器質的な変化がある。早いのは、機能的な変化です。一時的なものです。早く止めれば元に戻る。でも器質的な変化で脳そのものが構造の変化が起こってしまうと元に戻らない。だから、元に戻れないアルコホリックはたくさんいる。元に戻る人もいるけれど。早期なら戻るでしょう、機能変化だから。アルコール依存症が完成していたら元に戻りません。 |
箱 崎 : |
元に戻れなくなる人は、身体的な要因から、心理的な要因になってくると。 |
竹 内 : |
結局、体の問題なんです。われわれの心の問題は、脳の働きでしょ。脳の働きが心に表れるわけでしょ。脳に障害が起きているから、心の働きが病的になっているんですよ。 |
箱 崎 : |
アルコール依存症が身体的な問題があって、脳に影響を与えて、心の問題になっていることを知っておくのは大事なことですよね。 |
竹 内 : |
アルコール依存症を理解するうえで、医学的な視点はとても大切です。私が病気論を言うのは、本人がアルコール依存症のことを過剰に屈辱的な問題だと思っている。だから隠す。病気だったら全部免罪符になるわけではないけれど、罪一等は減じる。病気としてね。アルコール依存症は、病気による自己虐待です。自分の中に加害者と被害者の両方がいる。自助グループの中で、病気論を展開する必要があります。医師なども『アルコール医学入門』(新興医学出版社)程度を是非読んでほしいです。 |
箱 崎 : |
ACが読むものでいい本はありますか? |
竹 内 : |
翻訳本の『ママと踊ったワルツ』(医学書院)はいいですよ。アルコール依存症の母親を持つ娘たちのことが書かれています。 |
箱 崎 : |
アルコール家庭の母と娘の関係ですね。面白そうですね。 |