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・・続き2
それでは「抱かれないで育った」人がなぜ「自分の子どもを抱けない親」になるのでしょうか?「子育ては世襲する」といわれていますが、1990年代から日進月歩で進んできた脳科学の研究で、科学的にこの理由をお話できるようになりました。「脳の話は面白くない」などといわないで、一寸辛抱して読んでください。
お父さんの精子がお母さんの卵子を受精させ、お母さんの体内で、素晴しい奇跡がはじまります。まず受精卵は二つ、四つ、八つと、ドンドン分裂をはじめ、真ん中に脊椎が見えてくると、丸かった形が左右に引き伸ばされるように長くなり、頭になるところが円く、尻尾(?)の方はとんがって、私たちが中学のときに習った生物学の「原虫」のような形になります。さらに進んでもう4週間目には眼や顔の原型が出来、心臓が鼓動しているのが見えます。8週目に入ると今まで盛んに作られていた細胞が遺伝子の命令に従っていろいろなところに移動して行きます。
移動前の細胞は「幹細胞(ステム・セル)」と呼ばれみな同じで、移動先で特殊化します。たとえば肝臓に向かう細胞を切り取って、脳に行く細胞群に加えると、一緒にグリアという綱のような細胞に_まって脳のほうに移動して行き、脳の形成を手伝います。今アメリカ議会でもめているのは、胎児の幹細胞をアルツハイマー患者に移植して新しい脳神経回路を作り出す研究が、人間としてのモラルを越えることになるかどうかで、ブッシュ大統領はこの研究に国家の予算を使うことを禁じています。
さて移動する脳細胞は先ず生きとし生けるものが全部持っている脳幹という部分を作り、次に下等哺乳類で発達した大脳辺縁系というところを作り、それを覆うように人間で最も発達した大脳を作るのですが、この大脳の一番上にある3ミリぐらいの大脳新皮質というところになんと約140億個もの脳神経細胞が、刺激を与えられればすぐ脳神経回路を発達できるように控えているのです。
脳幹は爬虫類の脳といって、私たちの生存に必要な役割を果たします。心臓を鼓動させ、血圧の調整をしますが、お母さんの体内にいる胎児は、お母さんの身体の一部であり、お母さんの心身の健康に依存しているのです。先ず細胞の移動期(妊娠8週間から16週間まで)に、お母さんが放射線を浴びると、細胞が移動を止めてしまって、行き着くところに行かず、脳が正常に発達できなくなります。
また麻薬やお酒を常用することで、脳細胞を殺してしまったり、細胞が行き着くところを通り越して、「胎児アルコール症候群」という、特殊な顔立ちの赤ちゃんが生まれたりします。お母さんがタバコを吸うと、胎児の血管が細くなり、成長に必要な血液が不足するのですが、お母さんが「タバコを吸おうかな」と思うだけで、胎児の血管が細くなるというデータが上がっています。お母さんが妊娠を喜んで、栄養に気を使い、運動と休養を充分にとると、赤ちゃんの心拍も安定して、体内にいるときから「守られている」という安心感を味わうといいます。
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