箱 崎 : |
そこで、「何するんだ!」と怒鳴られたら、夫婦関係はもうおしまいですか? |
青 木: |
そうですよね、きっと。それで、ボーンとぶん殴られでもしたらもうおしまいでしたね。別れてましたね、その場でね。 |
箱 崎 : |
でも青木さんの夫はそうならなかった。 |
青 木: |
はい。「一体何があったの?」って言って、そこから初めて「うわあ」って泣きながら、「どんなにこの5カ月間、私がこの家の中でしんどい思いをしてたか分かってんの!」って、夫に言ったんですよ。そうしたら、もう彼はキョトンとして聞いていましたよね。
夫は、「僕は、子どもを産んで、君が幸せそうに家にいて、いつも“いってらっしゃい”って、ニコニコ送り出してくれるし・・・」と言いました。要するに夫は見たまんましか信じていないわけですよ。その裏にどんな思いが隠れているとかは全然考えない。夫は考えないタイプなんですよね。勘繰らないって言えばいいのか、よく言うと(笑)。 |
箱 崎: |
男性はわりとそうなんですよね、きっと。 |
|
青 木: |
本当に、男の人ってそうなんですよ。だから、そのときに彼が言った、「言ってくれなきゃ分かんないだろう」という言葉に、私、ちょっとガーンときたんですよ。ああ、そうか、私の中に、言わなくても分かってくれるのが本当の優しさだっていう、とんでもない錯覚が起きていたと。言ったって分かんないのに、言わなきゃよけい分かんないじゃないと思って、そのときから、全部表現しようと思ったんです。
本音を全部言っていこう、本音が言えなくなったとき夫婦でいる意味なんかないんだとか考えていって、思ったことは全部口にしようって決めたんですよ。
それからはもう全部、「今日こういうことがあって、私はすごく悔しかった」とか、「うれしかった」とか、言葉で気持ちを表現するようになりました。それまではやっぱり夫婦になってまだ間がないし、やっぱりこう、言わなくて分かってくれるっていう、優しさへの幻っていうのかな、幻想みたいなものがあったんですよね。
だから、本当に優しく生きている人たちっていうのは、相手のことを思いやりながらちゃんと自分の気持ちを言葉に出して表現している人たちですよ。それが人を信じていない部分が私に根強くあったので、口に出して言うことができないのだと気づきました。それと同時に、その片方で、言わなくたって分かってよっていう甘えもあったんだっていうことが分かって。でも、口に出すのって結構しんどいときありますよね。 |
箱 崎: |
そうですよね。 |
青 木: |
言わないでいる方が楽なときもあるんだけれど、信頼するっていうことは表現することなんだと思って、夫にどんどん言うようになりました。それは子どもに対しても同じことだと思ったんですよ。こっちが嫌だと思うことは正直に言おうと。
思春期なんか大変でしたけれど、言わないで済ませようと思っても、やっぱりこれは言っておこうと思って、「うちは門限は何時よ」とか、「一緒に暮らしている以上、この辺は守ってね」とか。子どもはイヤな顔をしていましたけれどね。言葉で表現するようしたんですよね。 |
箱 崎: |
さっき青木さんがおっしゃった「言わなくても分かっていると思った」ということ、すごく共感できます。子どもの頃から、自分はそうやって生きてきていますよね、向こうが言わなくても、それを察知して分かってあげようとしながら。だから人もやってくれるものだと思っていた。 |
青 木: |
そうなの。逆にそれがそういう状態になったことで、自分が相手の気持ちを察知しているようでいて、本当は相手に合わせていただけなんじゃないかとかね、そんなことまで考えていくわけですよね(笑)。 |