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第六回目のテーマは「生きていくための術」
教育ジャーナリストの青木 悦さんとの対話。
   
・・続き3(第三回)
青 木: それを、「母親になったんだからうれしいはずだ」って世間の人は言うんです。退屈というよりもね、相手がいないのと同じなんですよ。子どもは表情がまだ出ないですからね。これが4、5カ月になると笑顔も出てくるし、楽しくなるんでしょうけど、産んだ直後というのは体もうまく戻っていないし、すごくイライラしたんですよね。
箱 崎 : 仕事は休職したのですか?
青 木: 休職じゃなくて辞めたんです。「結婚する」って言った途端に配置転換が来ちゃって、もう頭に来て辞めてしまった。自分の人生で一つだけ後悔しているのが、このときに会社を辞めたことなんです。辞表を叩きつけちゃった。一度やってみたかったんですけれど(笑)、後悔しています。

子育て中に甦る子ども時代の怒り
箱 崎: 仕事を続けたかったんですね。
青 木: はい。もうちょっと我慢すればよかったかなってね。ちょっと気が短かったなあっていうふうに思うんですけれど、でも、やっぱり我慢できなくて。それで、次の仕事を探そうと思っていたら妊娠していることが分かって、それだったら子どもを産んでから次の仕事にと就こうと思ったのが落とし穴だったんです。
箱 崎: 落とし穴でしたか?
青 木: うん。やっぱりそれが大人の計算だったんですね。子どもを産んで、そこそこ子どもが大きくなってから仕事に出た方が楽じゃないかって。でもそれは全く子どもの存在を考えていない、大人の考え方ですよ。そのまま仕事したかったら、妊娠中でも次の仕事を探せばよかった。でも、そのときはちょっと休みたかったっていうのもあってね、それと重なって、家にいたわけですよ、2年間専業主婦していました。

家にいて、子どもの顔を見ると、寝顔を見ていると父に殴られている自分っていうのが甦ってきて、こんな子をあの人は殴ったのかしらって。生まれたばっかりの私を殴ったかどうかは知りませんけれども、そのときはきっと母が抱いていたと思うんですけれど、こんなかわいい子どもを殴ったりけったりできたのかしらって考えちゃうと、また記憶が戻ってしまうんですよ。
箱 崎: よく子育て中に自分が子どもの時に抑えていた感情が甦って、怒りの気持ちが出てくるという話は、子育て中の母親たちからよく聞きますけれど、青木さんも実際に体験されたのですね。
青 木: そうなんです。
箱 崎: そうすると、すごく苦しくなっちゃいますよね。
青 木: 苦しいし、腹が立つんです。その怒りの持って行き場がないんですよ。その怒りを子どもに出すわけにはいかないぐらいの理性は何とか保てていたので、6カ月ぐらいじっと我慢して、家事と育児を手伝ってくれっていう思いと、過去の怒りの気持ちと、両方の不満で夫にウイスキーをぶっかけたんですよ。単に家事、育児だけの不満じゃなかったと思う。
箱 崎: ああ、家事や育児の不満に、過去の怒りの気持ちが重なったんですね。
青 木: はい、そう思います。講演会でウイスキーを夫にかけた話をすると、よく聞かれるんですよ。「そんなことをして青木さんは、夫に殴られると思わなかったんですか?」って。でもそんなこと、全然考えてなかったんです。もちろん夫が私を殴ったらおしまいでしたよね。そのぐらいの覚悟でやっていますから。

だから、いつだって、ちゃんと物を言うときには離婚覚悟っていうね、これが女の人特有なことで、何でそんなに肩に力が入るんだろうと思うんだけれど、身近な女性はみんなそうなんですよね。夫に物を言うときには、まず区役所に行って離婚届(笑)。「わかるよ、その気持ち」って女性たちは共感できる(笑)。
「男の人は、物を言うのにそんなことしないじゃない。何で私たちってしちゃうんだろうね」なんて女友だちはみんな言っていますけれど、私もそうだったんですよ。

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