|気づきの対話 top
第四回目のテーマは、「エモーショナル・リテラシー」
薬物依存症の回復者で治療共同体のアミティの創設者のナヤ・ア−ビターさんとの対話です。
   
  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |  
続き5・・・

箱 崎 : 生きている意味の渇望を満たすことは、現代社会を生きるすべての人に突きつけられることですね。特に終身受刑者にとっては厳しいですね。刑務所の中で、終身受刑者と若い受刑者との交流があるのですか?
ナ ヤ: 刑務所によって規則は異なります。映画に出てきたカリフォルニア州のドノバン刑務所ではそれが可能だし、終身刑の受刑者はいろんな人がいます。ドノバン刑務所に来られる終身受刑者はそれなりに素行が良いという条件があります。
箱 崎 : アミティには、ナヤさんのように、子どものときに、性虐待を受けた人が多くいると聞きました。特に回復が難しいといわれる性虐待の回復のためにアミティではどのようなプログラムをしているのですか?。
ナ ヤ: まずたくさんの時間を使って、グループをして、お互いのことを知り合う必要があるでしょう。

もう1つは自分たちの性虐待の被害体験を話すだけではだめです。
たとえば、私には傷があるんだけれど、その傷をかいていると、どんどん悪くなるでしょ。だからそうではなくて、多角的な活動をした方がいい。
たとえば、アファーマティブグループといって、「この人のいいところはどこ?」と聴きあって、お互いのいいところを言って語り合うグループをやってみたり、映画を見たりすることも必要です。映画も性虐待の深刻な映画ばかりを観ていると、グループにくる前にみんな落ち込んでしまう。だからときにはとっても楽しい、性虐待とは全然関係のない映画を観たりすることも必要です。
箱 崎: プログラムというと、ネガティブな被害体験ばかりを話すことばかりしているように思います。
ナ ヤ: 自分の身に起きたことをある時点で受け入れてそこから抜ける。そこの先に進むためのアプロー チが大切です。ワークショップでは、笑い声も大切です。ポジティブな部分とネガティブな部分の両方が大切なのに、「自分たちは楽しいと思ってはいけない」と思ってしまうところがある。

20年前にアミティを始めたころ、グループをするといつも落ち込むし、いつも怒っている。だからグループをしたくない、という人が多かったのです。グループのプロセスをよりいいものに成長させたい。大人のグループプロセスをしたい。グループは良くも悪くもなります。
箱 崎 : グループの成長は、参加する1人ひとりの成長にかかっていると思いますね。お話を伺っていて、改めてアミティは生き方を学び直すための場所だと感じます。
ナ ヤ: アミティでは、ポジティブな面、ネガティブな面の両方の面のアプローチをしています。そして、全人的な人間を育てる。アミティは人生の学校です。
ある女性は、「ライファー(終身受刑者)に会ったこともないけれど、私の人生を変えたのはライファーだ」と言っていました。「刑務所を出れるか出れないかわからない終身受刑者が変われるのだから、言い訳できない。頑張らなくてはと思う」と。
かつて死刑囚だった終身刑の人になぜアミティに来ているのか尋ねたら、「笑い方を忘れてしまった。笑い方を取り戻すためにここに来た」と言っていました。
箱 崎: アミティにくる受刑者や依存症者だけでなく、子どものときに、親や教師から否定的な言葉ばかりを受けて育ってきて、感情を抑圧して生きてきた人はとても多いと思います。仲間同士の中で自分や相手を肯定的に捉えて、感情を表出し、感情を表現していくことを学び合うアミティのような人生の学校は、生きづらさを感じているすべての人に必要ではないかと思います。

ナヤさん、坂上さん、今日はどうもありがとうございました。またお会いできると嬉しいです。(了)
(1) アリスミラー  
世界的に有名な精神分析家で、著書の『魂の殺人』(新曜社)では、ヒットラーの子ども時代を取り上げて、父親から激しい暴力を振るわれ、感情を抑圧したことがヒットラーの暴力性を増大させて、ユダヤ人大虐殺につながったと分析している。アミティは、アリスミラーの考え方に基づいて、なぜ犯罪を犯すようになったのかを子ども時代にまでさかのぼって見つめて、それぞれの傷を受け止めるという作業を行っている。


  | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |  
   
 
COPYRIGHT(C)2006 ORANGE RIBBON-NET & THE ANNE FUNDS PROJECT ALL RIGHTS RESERVED.