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〈児童保護ソーシャルワークとは・・・その歴史的な背景と現状〉
米国では“児童保護”は数多くあるソーシャルワークの職種の中でも、確固とした領域と歴史を持つ、ひとつの大きな分野だ。児童保護のソーシャルワーカーは「児童を危険から保護し、保護者の子どもを安全に養育する能力を回復、向上させるために、社会的資源(リソース)を駆使して支援する仕事」。一言でいえばそういった任務になるが、親族や里親、グループ施設など、子どもの「親代わり」との共同作業と、あらゆる法的な意味合いと手順を抱きかかえた、多大な知識とスキルを要する仕事である。
そんな、大切な子どもたちの成長と生死にかかわる任務を遂行する児童保護ソーシャルワーカーの専門性が批判され続けてきた。「児童と仕事もしたことのない人間が、こんな難しく専門的な仕事につくのは危険」などという声が頻繁に聞かれる。
実際、ソーシャルワーカーの資格は郡や州によって異なるので、全米を通じた基準はない。ただ、このような厳しい世間の批判をうけ、またフォスターケアの仕事が複雑化する近年、児童保護の仕事に携わるワーカーの専門性を向上させようとする動きが目立ってきた。最近では大学院で福祉の修士号を受理したワーカーだけを取る郡もあると聞く。
私は、過去12年間の間に、カリフォルニアとワシントンの二つの州で仕事をしてきたが、どちらの州の児童保護局もソーシャルワーカーの入所試験を受けられるのは、大学や大学院での福祉などの専門分野の専攻、そして児童保護のケースマネジメントの経験が基準だ。この数年の傾向を見ると、現在私の仕事をしているシアトルの児童保護局では、大学院で福祉や児童心理などの関連学科を終了したワーカーが半数を越えている。
学歴だけではなく、私は、同僚たちの知識や経験の深さと、そして、仕事への真剣さにいつも感心している。粒ぞろいのワーカーたちのいる優れた児童保護局に勤めることは、この難しい仕事を学ぶ上にもっとも大切なことだ、と思っている。
カリフォルニアでは新入のソーシャルワーカーはトレーニング・ユニットで、半年間ソーシャルワークの方法をしっかりと学んでいた。ワシントン州では、『ソーシャルワーク・アカデミー』で、6週間の集中訓練を受ける。どちらの州にも10年から30年の経験を持つベテランのスーパーバイザーが4人から6人のソーシャルワーカーを指導している。カリフォルニアには、ソーシャルワーカーからスーパーバイザーまでが職場と仕事の改善案を自由に出し合うフォーラムがあった。
ワシントン州では、ソーシャルワーカーが自分たちの仕事内容とクライアントへのサービスの向上のためにCQI(コンティニュアス・クオリティー・インプルーブメント)という方法をとりいれて、自らの体験と試行錯誤のなかから児童福祉実践の改善の道を啓いている。(CQIについては、オレンジリボンネット・シリーズ〈1〉3回目の「児童福祉改革最前線」に詳しく説明されてあるので、そちらを参照されたい。)
そんなサポートの充実したわれわれの職場も、ケースの量が増えると仕事を日々こなしていくのが困難になる。クライアントの数はたいてい18人が理想とされているが、それ以上のクライアントを抱えると、週40時間では管理できなくなる。
ソーシャルワーカーの仕事が難しいのは仕事の量だけではない。人の家に入っていって調査をすることは、侵入的であるだけでなく、ソーシャルワーカーが自分の身を危険にさらすことでもある。親にとって、自分の子どもを他人に取られることぐらい逆説的なことは無い。
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