人生の主導権を取り戻すために (続き3)
精神科ソーシャルワーカー
引土 絵未



虐待防止に
つながる情報


治療共同体AMITY(アミティ)
 現在、私はアメリカの治療共同体AMITYの研究をしている。治療共同体とは、さまざまなモデルで世界中に広がっておりその定義は難しいが、対等な関係性と心理学的アプローチを重視したコミュニティであり、日本でのセルフヘルプグループと専門治療が統合されたものというイメージに近い。アメリカでの治療共同体の一番の特徴は、回復者カウンセラー(当事者であり専門スタッフ)が多く勤めている点にある。

 治療共同体AMITYは、アリゾナ、カリフォルニア、メキシコにおいて、アディクション問題を抱える人々、受刑者、他のプログラムでどうにもならないとされる人々等に対して援助を行っている。AMITYでは、自分の現在の問題の原因として自身の被害者性に着目することを重視しており、子ども時代を振り返り、受け入れていくことで現在の問題の解決方法を模索するためのさまざまなプログラムが行われる。その作業は時に大きな痛みや苦しみを伴うものであり、それを成し遂げるために回復者カウンセラーの存在は大きな役割を果たしている。問題の渦中にいる人々にとって、同じ苦しみから回復している回復者カウンセラーの存在は大きな希望であり、自分自身にとって回復が可能であると実感するきっかけとなりうる。

 このような、自分自身の当事者性へ着目するAMITYのあり方は、日本の援助方法論にも有益なのではないかと考えている。援助者が自身の問題を隠すのではなく、向き合うことで新たな力を生むことが可能になるのではないかと考えている。
そして、子どもの虐待問題の背景にはアディクションなどの問題が潜んでいることは少なくない。このような世代連鎖を断ち切るためにも、ひとりひとりの当事者性を癒していく取り組みが必要とされている。



セルフケア
セルフヘルプグループと心地よい空間
 私は援助者であり当事者でもあるため、自分自身の問題を語ることができる安全な場を探すようにしている。それは、セルフヘルプ・グループであったり、信頼のおける仲間や友人であり、そこで自分の思いを語るようにしている。アディクション分野の第一人者である斉藤学さんは「悩みは人を傷つけない、悩みは人を強くする。悩みを秘密にする時、悩みは人を傷つける」と語っていたが、私はそれを実感してきた。自分の思いを語ることができるようになりつつある今は、自分の弱さを知り、そして語ることは最大の強さであると確信している。

 もうひとつのセルフケアとして、ある研修会でもらった「どんなに知識や技術をポケットに一杯に詰め込んでも、それを使うのはあなた自身。だからあなた自身にたくさん栄養をあげなさい」という言葉が私の大切な言葉のひとつであり、自分自身が心地良いと感じる空間をなるべくたくさん持つようにしている。それは、天気の良い日の公園で昼寝、好きなアーティストのライブ、素敵な絵や作品を観る、映画を観る、友達とのおしゃべり、美味しい食べ物…。そうやって自分の心を豊かにしていきたいと思う。
 

☆プロフィール
引土 絵未(ひきつち えみ)
広島女子大学生活科学部人間福祉学科卒業後広島の精神病院にてソーシャルワーカーを5年半勤める。その後、首都大学東京大学院社会科学研究科社会福祉学専攻修士課程に進学。現在修士2年。研究テーマは「協働的援助関係を目指して−治療共同体におけるかかわりの一考察−」



「私の好きな絵」
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