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 ・・・続き3 

シンボル
  ボブは入院して以来約1ヶ月間暗黒の中をさまよっているかのようでした。ボブは中南米系の30代の男性で自殺願望が強いため病院へ入院をしました。しかし、入院して以来改善がみられず、病棟内でおこなわれている表現アートセラピーのグループに参加はするものの、何も手につかないようでいつも下を向き何も話さない状態が続きました。彼と少しずつ話をするうちに、彼は工事現場での仕事をしていたのですがケガをきっかけに働くことができなくなり、生活補助の支給も充分に得られずうつ病になってしまったということがわかりました。

  やがて1ヶ月も過ぎた頃、彼の表情も変わってきました。どうやらグループで他の患者の話に耳を傾けているうちに彼のネガティブな意識にも変化が訪れてきたようでした。ある日の表現アートセラピーのグループで、自分のためのポジティブなシンボルと言葉のイメージ作りを課題としてクライアントたちに与えました。

  ボブはそれまで我々セラピストの前でこれといったアーティスティックな面を見せなかったので、彼のこの時の様子は目を見張るものでした。彼は熱心にクレパスを使い、それは見事な美しい目と模様を描きだしました。そしてそこには「Awareness (気づき)」という言葉が添えられていました。そして今までとは違った真っ直ぐな芯が通ったようなしっかりとした目で私を見つめてこう言いました。「これからは、自分の問題に逃げずに生きていくよ」
  
  まさにこの絵は彼の今の状態とこれからの決意を示したシンボル的な絵でした。構成的な絵の美しさばかりではなく、そこには気迫のようなエネルギーがあふれていました。絵の中の目はボブ自身の自分の人生に対する見据えた目であり、悟りを得た目であったのです。
ボブの例は問題をなかなか解決できず葛藤をしながらも、表現アートを通して自己の無意識の領域から潜在的な力としてのシンボルを抽出した典型的な例といえましょう。

  表現アートセラピーではこのように人間の潜在的な力を信頼し、大きな可能性を秘めた無意識の世界からシンボルを取り出していくところから今、現実に抱えている問題を解決したり自分自身への理解を深めていきます。シンボルとはその人の精神状態を表すものであったり、それぞれの文化で伝統的に培われてきた知恵のようなスピリチュアルなイメージである場合もあります。これをユングは分析の対象として問題解決への手がかりとしました。表現アートセラピーではセラピストは分析をせず、その人がそのシンボルをどう解釈し理解していくかを本人にゆだね、セラピストはその手助けをします。

  理性と合理主義のもと、自己をコントロールして問題解決をしていく認知行動療法的とは違い、表現アートセラピーではその人の感性を大事にして、人間のもつ潜在的な自己回復力を信じ、おもにそれを引き出していく作業をおこないます。時間はかかるかもしれませんが、その人の根本を見つめていくために変化する時は大きな変化につながるのです。
(第三回 了)
  
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