ダニエルは学校では特殊学級で勉強し、病院への入退院を繰り返して、いじめの対象にもなり、家では母親は幼い妹の世話に精一杯で、セルフエスティームがとても低かったように思います。私は彼に自分の感性を信じてそれを伸ばしていくことを励ましました。いつのまにか彼の学校での成績も伸び始め、彼は授業でサクソフォーンを習い、作曲をしたいと希望を持ち始めました。
ところが、ある日彼は学校でひどくいじめられ、家に帰って怒りを幼い妹にぶつけようとしました。母親は彼を叱り、彼は部屋に引きこもってしまいました。私は母親に呼びだされて彼の部屋の前に行くと、「来るな!」と叫び声が聞こえました。それでも無理やりに入ると彼は毛布を頭からかぶり絵を描いていました。私は彼のそばに行き、一緒に黙々と絵を描き始めました。長い沈黙の時間が訪れました。するとダニエルはぽつりと私に言いました。「こうしていると一番落ち着くんだ」。
そこで私は彼に少しずつゆっくりと、なぜ心が落ち着くのか説明をした上で、自分の気持ちが抑えきれなくなったら絵を描くことによって心を整理するようにということを伝えました。
ダニエルにとってアートで表現をすることは、彼の感受性豊かな思いを表すひとつの大切なツールであり、自分のバランスを保つスキルであったのです。さらに、アートは心の癒しのためのツールというだけではなく、教育という部分でも効果を表します。
実際このダニエルも表現アートセラピーを受けることにより学校生活の質は向上していきました。表現アートセラピーの中で子どもの創造性の発達を促すことで子どもの学習への取り組み方は変化をとげ、相乗効果として心豊かに学ぶ姿勢が養われてくるのです。 |