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小 野: 私は、映画を撮る前、もう撮るか死ぬかというところにいました。この苦しみは、私だけが抱えているわけじゃない、映画で苦しみを消化したいという思いでした。この映画は最初「汚れた女」という言葉を作品のタイトルにつけたけれど、自分を肯定したい、生きた証しとして伝えたいと思いました。
小 林: 性被害について、この映画の中ではごく一部の場面であったけれど、言えない人の思いをどれだけ表現してくれていたか、どうか皆さんにそのことをわかってほしいと思います。
箱 崎: 小林さん、小野さん、ありがとうございました。
トークショーを終えて記念撮影
「生きていてよかった」と思えるプロセス
誰にでも、目を向けたくないところ、胸にしこりのように残る生きづらさが、なんらかの形で存在しているのではないでしょうか。何かしら抱えるものはあっても、私たちは見ないふりをし、やりすごす術を探そうとする気がします。でも、小野さやか監督は「どうして?」と観る者がつらくなるほどに、自分の抱えるものにぶつかり、自分をさらけ出し、苦しみのとらわれから抜け出ようとあがく。トークショーでのコメントにあったように、小野さん自身が自分と他者と正面切って対峙した、この作品の創造過程そのものが、自分の人生を光のさす方へ歩みだそうとするもがきだったのでしょう。それは自分の存在価値を誰でもない自分でかみしめることができる、「生きていてよかった」と思えることにつながったのでしょう。

「子どものため」という言葉
 映画冒頭に出てくる家族写真は、どこにでもありそうな和やかな家族の日常を連想させます。しかし実際は、一見平和に見えるよう、それぞれが期待される自分を演出することで成り立つ部分も大きいものです。家族なるものは、それに期待されるものが大きい分、裏切られたときに苦しみの元凶になりやすいのかもしれません。自らの生きづらさを増幅させてしまうことも、家族にはできてしまう。ここで、涙を流し足を震わせながらも、ぶつかっていった小野さんの姿から、新しい家族の未来や人生の明るさを見出せたように思えます。

また、親側は「子どものため」と思って預けたヤマギシ会の1年間が、小野さんに、15年たっても決して消えない、家族に捨てられる恐怖感と自己喪失感を植え付けました。強く思い入れのある相手に何かしてあげたい欲求は、人間がどうしても抱いてしまう感情のように思えます。大切なのは、「子どものため」という言葉でその感情を正当化しないことではないでしょうか。親子は対等ではなく、関係の強さは非対称なものです。対話すること、思いをはっきりと口に出せる関係・環境を提供すること、思いを受け止める柔らかな心をもつこと、力の強い側には、そうしたことを行う意志を持ってほしいと思うのです。

理解しようとする気持ち
最後に、つらさを抱える人に出会った時、身近な人がつらさを口にだした時のことです。同情したり、どうしたらいいかわからなくて距離をおいてしまったり、自分には関係のないことと済ませるのではなく、理解しようとする気持ちを持つこと。小野さんが映画では表現しきれなかった性被害のつらさを、小林さんは推し量り、理解していました。人ごとではなく誰にでもありうる、そんなすぐ隣り合わせのところに苦しみの元はあるのです。理解することの大切さを、小林さん、小野さんに教えてもらうことができました。
『アヒルの子』は、自分の生きづらさに向き合う勇気、家族に向き合う勇気、誰かの生きづらさを共にわかちあうやさしさを、かみしめることができる映画だと思います。この映画を観た方はきっと、自分の中の何かと出会い、向き合うことでしょう。(了)

6月18日の「ポレポレ東中野」での最終上映日は、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。
今後も各地での上映が予定されています。是非、ご覧ください。

◎神奈川県:横浜シネマジャック&ベティ

http://www.jackandbetty.net/ 
7月17日(土)〜30日(金)
17日(土)〜23日(金):15:05〜(1日1回)
24日(土)〜30日(金):19:55〜(1日1回)
 
 
◎愛知県:名古屋シネマテーク
http://cineaste.jp/
8月7日(土)〜20日(金)
※1日1回上映 上映時間詳細は後日発表致します。 
 
◎大阪:第七藝術劇場 
http://www.nanagei.com/
初夏公開予定

◎京都:京都みなみ会館 
http://www.kyoto-minamikaikan.jp/
初夏公開予定
※平成22年5月15日(土):東京・新宿区のシューレ大学で、ドキュメンタリー映画『アヒルの子』の試写会後のシンポジウムの模様は→こちらから

レポート/お茶の水女子大学大学院2年

安藤 藍

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