箱 崎 : |
暴力の連鎖を絶って、新しい生き方を選ぶ、ということですね。日本では子どもへの虐待が増えていて、大きな社会問題になっています。私はいくつかの子どもへの虐待事件の裁判を傍聴する中で、子どもに虐待をする親自身が子ども時代に虐待を受けていたり、ドメスティック・バイオレンス(以下DV)にさらされるなど、暴力に満ちた家庭で育っていることを知りました。
そのような虐待を受けて育ち、親になって子どもを虐待した親が安全な親と変わり、子どものもとに戻ってきてほしいと思います。それはアミティのプログラムと通じると思いますが、虐待した親にはどんなプログラムが必要だと思いますか? |
ナ ヤ : |
それはとても必要なことだと思います。アミティのプログラムは、刑務所の成人受刑者だけでなく、少年院でも必要なことです。若い人たちも将来的には親になっていくわけですし、すでに親になった少年もいる。早く始めるほどいいです。 |
箱 崎 : |
少年院にいる少年少女たちの8割以上が虐待やDVにさらされるなど、暴力のある家庭で育ったことが調査結果でわかっています。本当に早い方がいいです。 |
ナ ヤ : |
アリスミラー(1)の考え方はそれにとても近いです。加害者は、DVにさらされたり、虐待を受けて育った場合がほとんどだと思います。まず「いい親になりなさい」とか、「暴力を振るわない正しい生き方をしなさい」という前に、彼らは体験したことを表現すべきです。
自分がやってきたことももちろんそうだし、その前に、なぜそんなことをするようになったのかを認識する。彼ら自身、かつては被害者だった可能性が大きいわけです。被害者であったときにどんな目にあったのか、しっかり本人たちが受けとめて表現させる。まず表現することが大切です。 |
箱 崎 : |
2002年にナヤさんが来日されたときに、私はワークショップを受けました。そのとき、ナヤさんは「学校では算数や国語について教えるけれど、感情については教えない」と言っていたことが、とても心に残りました。子どものときに、学校で自分のありのままの感情を認めて、表現するなど、感情について学ぶことができたらどんなにいいかと思います。自分や相手を大切に思えるようにもなると思います。
暴力の中で育った子どもたちは、特に感情を抑圧して生きています。それがいじめなどの暴力を引き起こしていると思います。 |
ナ ヤ: |
先進国では特に、テクノロジーや知識の方ばかりに気をとられてしまって、情緒とか、感情というものを幼い頃から育むということはあまりしていません。育んだり、理解したり、もっと情緒というものに気を配ることができたら、私たち先進国ではもっと違う生き方ができるのではないかといつも思います。
朝、新聞を読んでいたら、2人の男の子が行方不明になっていて(栃木の兄弟殺害事件)胸が張り裂けそうな事件が報道されていました。新聞に加害者の男性のコメントが載っていて「子どもたちに我慢がならない」とありました。その言葉をひとつ取っても、もっと異なる表現ができると思います。「子どもたちに我慢ならない」という一言にいろんな意味が込められている。そんな小さい子どもに対して、殺してしまうぐらいイライラしてしまうのは、彼自身に情緒的な抵抗能力が欠けているからだと言えます。言い換えると、それは彼自身にたぶん何かがあったからだということです。
事件だけを見ると胸が張り裂けそうで、それだけにとらわれてしまいがちだけれど、私たちはもっと大きな全体像をつかもうとしなくてはいけないのではないかと思います。 |
箱 崎 : |
栃木の幼い兄弟が殺された事件は、加害者は覚せい剤使用者で、薬物依存症のようです。このような事件が起きたとき、1人の人間、1つの事件をもっと大きく深い視点で見ることが大切です
ね。それがこのような事件を予防することにつながると思います。 |
ナ ヤ: |
今朝、ホテルでジャパンタイムズを読んでいたら、3つの記事が載っていました。そのうちの1
つが今話した事件で、もう1つは19歳の少年が親を殺した事件で、もう1つは11歳の女の子 が同級生を殺して自立支援施設に送られるという事件(長崎小6女児同級生殺害事件)でした。
事件自体はとても深刻だけれども、事件が全国紙でカバーされることは、まだいい方です。アメリカの場合は、地方紙には載るかも知れないけれど、全国紙レベルで、こういうテーマが話題になるのは、最近は非常に少ないです。なぜなら、もうそれはもう当たり前のことだからです。あまりにも当たり前で誰ももう気にかけないのです。
こういう事件が起きたときに、単に犯罪をおかしたとか、人を殺したとか、それだけの関心に終わりがちです。しかし、それだけでなくて、彼らの背後に何があるのかを見ていく必要があります。その背後にたとえばDVがあったのではないかとか、多角的な視点で見ていくことができれば、もっと違う社会の在り方を考えられるのではないかと思います。 |
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アミティの創設者、ナヤ・アービターさん |
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