怒りの奥底にある深い哀しみと淋しさ (3)
オレンジリボンネット管理人 
箱崎 幸恵 
  
 22年前、父が亡くなってしばらくたってから、母から父が「幸恵に謝らないと入院できない」と言っていたと聞いた。あのとき、父が私に謝罪したとき、父に聞きたかった。「一体、なんのことで私に謝っているの? 9歳のとき、お父さんの自殺未遂の第一発見者になったこと? 10歳のとき、私やお母さんや私の大切な犬のバンに暴力を振るったこと? 感情を出すなと怒鳴ったこと? でも私が一番傷ついたのは、お父さんが9歳の私に“お母さんだけが来るはずで、お前はこの家に来るはずじゃなかった”と言ったことだったんだよ。本当は私のことどう思っているの?」
 最後に父に、子どものときから積もりに積もった私の怒りの奥深くにある哀しみ、淋しさを伝えて受けとめてほしかった。

 あのとき、好きになった男性を無視せず、「私はあなたのことが本当に好きで、あなたに振られたとき、とてもショックだったし哀しかった。もう会えないと思った。だから、あなたにまた会えたことは嬉しいけど、戸惑っている。どんな気持ちから来てくれたの?」と、私の本当の気持ちを伝えて、相手の気持ちを聴きたかった。

 無視するという私の怒りの表現の奥底にあったのは、深い哀しみであり、淋しさだった。感情を抑圧して生きてきた私は、自分を失い、自分の本当の気持ちがわからなかった。そのため相手を無視するという歪んだ怒りの表現で、相手を傷つけ、自分を傷つけた。私の怒りの奥深くにある哀しみ、淋しさは、相手に伝わることなく、受けとめられることなく、自分に跳ね返ってきた。そして自分で飲み込んだ。それは家族の機能をしていない、アルコール問題を抱える家庭で育つ中で、私が子どものときに身につけてしまったことだ。それが私を生きにくくさせてきた。

 私の現在の課題は、ありのままの感情を自分に伝え、人に伝えることだ。自分自身を探求することは、現代社会を探求することに通じる。私は自分の体験から、今の社会は、感情を抑圧しているために、自分を失った状態の人たちによる歪んだ怒りの表現が蔓延していることを知った。大人が怒りの奥底にある深い哀しみと淋しさに気づき、感情がわかち合われ、受けとめられ、 解き放たれ、真の自分を取り戻したとき、子どもは真の自分を生きることができる。
 一人ひとりが生きてきた道のりに苦しみがあり、喜びがあり、大切な学びがある。それは子ども虐待を防ぐための学びにつながる。“回復とは成長”と、私は先行く仲間から教わった。オレンジリボンネットが、1人ひとりの学びが語られ、成長をわかち合うサイトになることを願っている。(了)
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