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  オレンジリボン運動のチラシやポスターをつくるにあたり、市民に向けて、どのような呼びかけの言葉にするか、そして、オレンジリボンをどのような運動にしていくのがいいか、アン基金のメンバーは、3ケ月かけて話し合った。「虐待を止めましょう」というよくあるスローガンでは、誰に向けた言葉か曖昧で、チラシを配る者たちは、絶対に虐待しないという権力的な立場に立ってしまう。それでは意味がない。しかしなかなかいい言葉が見つからなかった。
ある時、話し合いの場で、アン基金の理事の里親がこのような話をした。

 「子どもを育てている時に、勉強しない子どもに強い怒りを感じた。それで“勉強しなさい”と息子に何度も言い続けた。ある時、息子は“僕は勉強が嫌いだ”と言った。自分を主張する子どもの言葉に衝撃を受けた。その時に初めて自分の奥底にあった気持ちに気づいた。私は子どもの時、自分の親から勉強することを強いられ、友だちと遊びたい時間を削ってまで勉強していた。私が我慢して勉強していたのにどうしてこの子は我慢できないのか、という怒りの気持ちだった。息子の問題ではなく、私自身の問題だった。そのことに息子は気づかせてくれた」。 

 子どもに向けた怒りの気持ちが、実は子ども時代に押し込めていた自分自身の気持ちだった。このようなことは、子育てをしている親なら誰しも体験することである。しかし、この大切なことに気づかない人は多い。

 暴力性は人間なら誰でも持っている。すべての人の問題なのである。だからこそ、この気づきが自分と子どもから、虐待から遠ざけてくれるのである。里親の貴重な気づきのエピソードを生かし、子ども虐待防止活動をする上で、この大切なことを共有したいと願い、紆余曲折したオレンジリボン運動のメッセージは、「自分の気持ちに気づくことは、子ども虐待の予防につながります」に決まった。
 2005年11月に全国で初めて、子ども虐待防止のオレンジリボン運動を行った。翌年からは、NPO法人児童虐待防止全国ネットワークが事務局を担うようになり、里親たちが始めた市民活動から国をあげての大規模運動に変遷していった。オレンジリボンが虐待防止のシンボルであることは受け継がれたが、「自分の気持ちに気づくことは、子ども虐待の予防につながります」というメッセージは受け継がれなかった。

 子ども虐待は、貧困や親の精神疾患、育てにいく子どもなど子育てのストレスなど、いろいろな要因があると専門家が指摘しているからだ。しかし、虐待を招くといわれるこれらの要因こそが、感情の抑圧を生みやすくし、暴力につながりやすい。やはり、自分自身の感情の気づきこそが、虐待防止につながるといえる。

 そのため、アン基金では、企業の支援を受けて、2006年11月に、インターネット上で、オレンジリボン運動を創めた時の思いを伝えていこうと、「子ども虐待防止のオレンリボンネット」を開設した。気持ちと情報を分かち合うことを目的としたサイトである。


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