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 2000年に児童虐待防止法が制定された後、国会では改正に向けた議論がほとんどされていなかった。そんな中で、2004年1月、衝撃的な児童虐待事件が起きた。大阪府岸和田市の中学3年生の男児が父親とその内縁の妻から壮絶な暴力と食事をほとんど与えられない虐待で、餓死寸前で病院に搬送されたのだ。

 メディアはこの岸和田児童虐待事件を一斉に報道し、「子どもを守る法改正が必要」と訴えた。登校しない生徒の相談を学校から受けていた児童相談所は、家庭訪問はしたが、親から拒絶されて子どもを確認せず立ち入り調査をしていなかったのだ。その後は学校と児童相談所の連絡も途絶え、放置状態の中で起きた事件だった。裁判で、男児を虐待した父親の内縁の妻も子どもの時に虐待を受けて育ったことがわかった。
 
 この事件により、現行法の対応の限界が強く指摘された。青少年問題委員会の議員たちが岸和田市の関係機関を訪問調査するなど、親が拒絶した場合の親の同意なしで立ち入り調査ができるように権限強化をするための法改正の気運が高まった。

 2004年4月、児童虐待防止法が改正された。改正された法律では、まず通告の義務が拡大した。これまでの「児童虐待を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」となった。児童虐待の定義も追加された。児童虐待の定義の中に、「保護者による虐待」だけでなく、「同居人による虐待」も追加された。この場合、同居人は「加害者」にならず、同居人による児童虐待を放置したということで、保護者が児童虐待の「加害者」とした。さらに、子どもの目の前で配偶者に対する暴力が行われた場合(DV)も児童虐待と、定義に加えられた。

 そして、「国及び地方公共団体の責務の改正」、「警察署長に対する援助要請等」、「面会・通信制限規定の整備」、児童虐待を受けた子ども等に対する学業の遅れに対する支援」として、進学・就職の際の支援等に関する規定の整備が行われた。
 9月に改正児童虐待防止法が施行された。それからまもなく、小山児童虐待事件が起きた(詳しくはオレンジリボンに記載)。この事件により、児童相談所など関係機関は法律を適切に運用していないのではないかとの強く指摘された。

 2007年に2回目の改正が成立し、2008年4月に施行された。この改正では、「児童虐待の安全確認などのための立入調査等の強化」により、出頭要請を行っても、拒否した場合、裁判所の令状に基づいて、自宅などへ解錠の上強制的に立ち入る権限を付与した。また、「保護者に対する面接・通信等の権限の強化」により、都道府県知事による保護者に対する接近禁止命令制度が創設(命令違反には罰則あり)されることになった。さらに「保護者に対する指導に従わない場合の措置の明確化」で、都道府県知事の勧告に従わなかった場合には、一時保護、施設入所措置など必要な措置を講じることとした。

 この年、児童相談所が対応した児童虐待相談件数は4万件を超えた。それに比例するかのように改正された児童虐待防止法は、全体的に児童相談所の権限を強化する内容となった。それが今後の改正で加速するかも知れない。2010年に入ると、ようやく懸案となっていた「親権一時停止」の議論が本格的にされるようになってきた。
 今後の法律改正では「親権一時停止」が焦点となるだろう。被害当事者である多くの子どもの声に耳を傾け、親の権利ではなく子どもの権利を優先にして、改正への議論を展開する必要がある。


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