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綿引美香(Mika Watabiki)
『1966年、東京都生まれ。日本大学大学院芸術学研究科修士課程修了後、渡米。 レズリー大学大学院表現療法学部及びメンタルヘルスカウンセリング修士課程修了。 ボストン近郊にて7年間、外来診療所及び市民病院の精神科にてセラピストとして勤務。 レズリー大学大学院表現療法学部博士課程を経て、現在、表現アートセラピー研究所のスタッフとして個人セッションなどを受け持つ。また、都内の企業向けのカウンセリング、ハートコンシェルジェでのメンタルヘルスカウンセリング及び、表現アートセラピーにも従事。昭和女子大学生活心理学研究所・特別研究員、アートセラピー総合企画研究所絵画造形療法講師、ヨーロッパ大学院表現アーツセラピーセラピー・コンサルティング・教育学部博士課程に在籍し、日本における表現アートセラピーの適応性を研究中。)』
 
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Feb-26-2008 update  
  前回は表現アートセラピーでの臨床について個人セッションのケースからお話しさせて頂きましたが、今回はグループのケースから引き続き臨床についてお話しをさせて頂き、さらには日本社会での表現アートセラピーの可能性を探りたいと思います。
表現アートセラピーグループ
  私はインターンとして、そして表現アートセラピストとしてボストン郊外の市内病院で働いていました。マサチューセッツ州は全米の中でも表現アートセラピーを用いる病院が多く、私のいた病院でも表現アートセラピー科が精神科に属していて、常に二人の常駐と非常勤のセラピストが一日中患者のためのプログラムをおこなっていました。

  患者の入院期間は長くても3ヶ月間であり、患者たちの症状の緩和は見られますがその後の完治や成長などは見ることはできません。しかし、短い間でもグループの中で多くのことを学び、成長を遂げた患者や分岐点を迎えた人も少なくはありません。
 これは私のスーパーバイザーと共におこなったグループでの出来事です。十数人の患者と共に大きな紙にこの病棟としてのコミュニティーと題して絵を描き、さらにそこに属する自分をシンボルとして紙粘土でオブジェを作りました。

  その時、一人の患者が自分のシンボルとして黒い棺桶を作りました。その患者は何度も自殺未遂を図ってきたうつ病の患者でした。私のスーパーバイザーは「それがあなた?本当に?」と彼に問いかけました。すると、彼はもう自分には死ぬしかないといい、希望はないと答えました。
それを見て彼女は他の患者に問いかけました。「みなさん。何か彼にコメントはありますか?」すると一人が、「俺がおまえの棺桶のふたをあけてやるよ」と言い出しました。他にも、「私が何度でも終わりにならないようにふたをあけてしまうわ。大丈夫よ」といい始めるメンバーが出てきました。
そこの場には、死を考えてしまう友人を「そんな風に思う時もあるよ」と受け入れられる仲間がいて、なんとか自分たちが彼を助けようとする支えあいのような暖かな空気が流れていました。棺桶を作った本人も仲間の優しさを受け止めたかのように涙を浮かべていました。

  セラピーではセラピストまたはカウンセラーの治療方法や影響力がクライアントを変えるものだと考えがちです。確かにセラピストの影響力は大きいのですが、グループの場合はいかにして、クライアント同士のコミュニケーションが治癒につながりお互いを成長させていくかなのです。私もその事実をこの病院の中で目の当たりにしてきました。

  60歳を超えたある女性の患者は落ち込みによる摂食障害で入院をしてきました。口数こそ少ないもののいつも穏やかにスタッフに微笑んでいました。その彼女がどうしてもパッチワークをやりたいと言い出しました。病棟では針は危険物であり使うことは禁じられています。そこでセラピストの監視つきでおこなうことになりました。

  すると、何人か一緒に参加したいという女性の患者たちが現われました。その中には、職業は舞台衣装を作るデザイナーだという若い女性患者がいました。彼女は仕事のストレスで自殺願望が増加してしまい自らの危機を感じて入院してきました。最初は洋裁することなど彼女のストレスの原因と結びついてしまい症状の改善によくないのではないかとスタッフは懸念を抱きました。しかし、どうやら彼女はその高齢の女性患者の人柄に触れ彼女の手助けをしたいと思っていることが分かり参加を許可しました。

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