2009年12月12、13日と2日間にわたって、NPO法人里親子支援のアン基金プロジェクト主催により、『こどもがのぞむ社会的養護を考える大会』が日本女子大学の目白キャンパス内にて開催されました。
 この大会の最も大きな目的は、「子どもが大切にされていると実感できる社会の実現」でした。これまで社会的養護のもとで育たざるを得なかった子どもたちは、施設は施設、里子は里子というように、ばらばらに捉えられてきたようです。しかし、どこにいる子どもであっても「自分は大事にされている」と思える環境が必要なことは言うまでもありません。そこでこの大会をひとつの出発点として、まず垣根なく当事者である子どもたちのことばに耳を傾け、子どもたち自身も私たちもみんなでこれからのことを考えたい、という思いでスタートしました。

会場の受付
長蛇の列


 
 当日、受付には長蛇の列ができ、多くの人が関心を寄せてくださっていることをうれしく思いました。開会式の折り紙入場セレモニーの様子をご覧ください。いろいろな事情から本大会には参加できないけれども、趣旨に賛同し違うかたちで参加してくれた子どもたちがいました。思いをこめて名前や絵を描いてくれた折り紙の短冊は全国から集まり、長い長いチェーンとなって、2日間会場を飾りました。

全国から寄せられた折り紙で作ったチェーン
折り紙の短冊に描かれた子どもたちの絵



 さて、大会のメインをはるのは、円卓会議です! 2時間超にわたり、緊張のなかでも一生懸命いろいろな話題を振り、和やかに盛り上げてくださいました。参加者は、児童養護施設出身者、元里子、里親家庭の実子、養子、それから里親、施設職員、司会の方々です。
 円卓会議の話題は、実親に会いたいかどうか、きょうだいでも施設では関係が希薄になりやすいこと、実子の抱える悩み、里親子に限らない里子同士の関係など多岐にわたって活発に出されました。

円卓会議参加者の里親家庭の実子の親子
円卓会議の様子
スクリーンに映し出された円卓会議


 「措置の際に施設や里親などの選択肢があったことを知らなかった」という現実や、「施設職員は嫌いだったし本音も話さなかったけど、見捨てないで見守ってくれる人もいた」という施設生活での思い、「実子に悩みがあると思わなかった」という発見がありました。
 どこであれ、そこで生活してよかったと思ってほしい、ということばが印象的でした。およそ250人の聴衆は別会場で話し合う彼らをスクリーンを通して観ていましたが、とても臨場感があり、会議がおわると大きな拍手に包まれました。
 この日は夜に懇親会も用意されました。アットホームな雰囲気のなか2日目のゲストの方や円卓会議参加者たちをはじめ皆交流を楽しみました。



 2日目は、まず2人の海外ゲストのセッションが行われました。18年間児童養護施設で過ごしたケニア出身のスティーブ・ウセンベさんは、現在ソーシャル・ワーカーとして活躍されています。15年間一度も抱きしめてもらったことがなかったというスティーブさんは、養育に携わる者として、子どもにその存在を大事に思っていることを感じてもらうこと、「愛は特別」というメッセージを送ってくれました。

スティーブン・ウンセベさん
エマニュエル・シャーウィンさん
質疑応答
 
 もうひとりの大柄で笑顔が素敵なエマニュエル・シャーウィンさんは、IFCOにユース部門をつくった行動的な方です。児童養護施設時代から、仲間を募り大人たちを巻き込んで、例えば門限や小遣いといったことからルールを変えたり、変化を起こしてきました。以来国際的に子どもの人権やケア向上のために活動する彼は、日本も社会全体が子どもの権利を理解し、様々な学術関係者、実践者、職種の人々が集まって力をあわせることの必要を述べました。
 そして、紙とペンを用意し、自分にできることを書きだして実行してみてほしいとヒントをくれました。 盛り上がった午前の部のあとのランチブレイクでは、イベントもありました。華麗な一輪車の輪くぐりやパフォーマンスに、寒い戸外もぽっと温まったようでした。


 
 午後は、1日目の円卓会議者のうち3人の当事者の方と司会をされた先生、それから新たにお2人の先生を加えた6人と大会実行委員長の和泉広恵さんにより、シンポジウムが行われました。実子を含めた里親養育、やむをえず社会的養護が必要になった子どもには選択肢を示すことなど、関心を集めました。 ほかにも、関係と時間の積み重ねとしての家族、つながりあうことの大切さや、養育者が変わらないための職員・里親が長く続けられるようなサポート、など話題はつきませんでした。

大道芸人くりちゃんのショー
シンポジウム
会場の様子

 2日間を、それぞれがどう受け止めたのでしょうか。スティーブン・ウセンベさんは、「起きたことは10%しか人生を構成していない、残り90%はどうその出来事に反応したかだ」と言います。自分は何をしたいか、どうなりたいか目的を失わないこと。そういった強さも必要なのだというのです。

 エマニュエル・シャーウィンさんもまた同様のことをお話していました。「施設は環境としてはよくなく残念であったけれど、そのことを今の自分に変化を起こさせて強くしてくれた意味では良かった」と。この強さは、誰にでも必要なのかもしれません。
もちろん、ある面ハンディのある環境に生まれた子どもたちに、ただ強くなれと押し付けるのは間違いでしょう。でも、強くたくましく夢をもって生きようという意欲をもてるように、私たちは自分にできることを実行していくことが求められるのでしょう。

 私たちひとりひとりができることは小さくても、積み重ね集まれば何かが変わるかもしれません。エマニュエルさんは言いました。「できることを紙に書いてみて」と。
 あなたは何を書きますか?

レポート/大会実行委員・お茶の水女子大学大学院1年
安藤 藍

 
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