東京の三鷹駅から歩いてすぐのところに、絵本屋「プーの森」があります。店長の野村羊子さんは、絵本を通して、お母さんや子どもたちの心に寄り添ってきました。野村さんにお願いして、大人と子どもに向けて、毎月テーマにあった、お薦めの絵本や書籍を紹介してもらうことになりました。どれも手にとってみたくなります。一緒に絵本の扉を開けてみませんか?
今月のテーマ
「ありがとう」
December-2009
 「ありがとう」は、とてもすてきな言葉。もっともっと使われても良いと思います。

 私はお店でサービスされたときに、「すみません」ではなく「ありがとう」と言おうと心がけています。相手に負債を負わせたり、迷惑をかけたわけではないのだから、相手の状態をおもんぱかっているような 妙にへりくだった言葉より、自分の気持ちを率直に表す「うれしい、ありがとう」と言う方が気持ちがいいと思うからです。

 「ありがとう」は魔法の言葉だと言う人もいます。家族や周囲の人に「ありがとう」と言い続けたら関係が変わる、と。確かに、何かしてもらったとき、やってもらって当たり前ではなく、「ありがとう」と言うと空気が変わります。気持ちのいい空気が流れだし、プラスのストロークが飛び交うきっかけになるでしょう。今日「ありがとう」を何回言ったでしょうか。

 でも、闇雲に「ありがとう」を言い続ける必要はありません。自分を傷つけるものに無理矢理感謝することはないのです。何に感謝し、何を拒否するか。しっかり感じ取っている「私」の感覚を大事にしましょう。

 日々、頑張って生き抜いている「私」に一番沢山の「ありがとう」を言い続けたら、周囲の人への「ありがとう」も自然と出てくるのではないでしょうか。

「ありがとうん」
作 石津ちひろ
絵 メグ ホソキ イースト・プレス

 いろいろな感謝の言葉が描かれています。小鳥に言う「うたをうたってくれて ありがとう」。赤ちゃんに言う「いっぱいびっくりさせてくれて ありがとう」。

 ラストは「そこにいてくれて ありがとう」。ただ、いるだけで人は価値がある。大事な人に贈りたい小さな絵本。

「ありがとうのえほん」
フランソワーズ さく 
なかがわちひろ やく 偕成社

 少女がいろいろなものに、「ありがとう」を言っています。朝起こしてくれる雄鶏に。ぽかぽかのお日様に。大事なものを守ってくれるおうちに。わたしの暮らしの中のささやかなものに、たくさんの「ありがとう」。

 最後は、「こんな すてきなものを いっぱい くれた かみさま ほんとに ありがとう」。くちずさみやすい調子の言葉を読み上げていると、やっぱり優しい気持ちに浸れます。
「ありがとう」ひろちゃんえほん・2
中川ひろたか・文 あべ弘士・絵 偕成社

 ひろちゃんが、ワニにお花をプレゼント。「はい どうぞ」。「ありがとう」。ワニはお返しにとうもろこしをくれました。沢山もらったので、クマにわけてあげました。

 プレゼントをあげる度に「ありがとう」とお返しの輪。その繰り返しの中で、温かい気持ちになります。幼い子ども向けの絵本ですが、「ありがとう」っていい言葉だなあと、つくづく感じます。
 
「ありがとう、フォルカーせんせい」
パトリシア・ポラッコ 作・絵 
香咲 弥須子 訳 岩崎書店

  トリシャは、絵が上手な女の子。でも字が読めない。くねくねした形にしか見えないから。バカにされいじめられる日々が変わったのは、5年の時フォルカー先生に出会ったから。トリシャの秘密、文字が読めないことを知ったフォルカー先生は、国語の先生と放課後の特訓を始めた。

 自伝的作品のこの絵本を読み終えたとき、トリシャのように自分を助け、支えてくれたすべての人に「ありがとう」という思いでいっぱいになるのではないでしょうか。
「おじいちゃんと森へ」
原作:ダグラス・ウッド 絵:P.J.リンチ 
訳:加藤則芳 
エッセイ:C.W.ニコル 平凡社

 ぼくが幼いとき、おじいちゃんは一番の友達だった。森に散歩に行くと、おじいちゃんは木も川も岩もお祈りをしていると教えてくれた。地球上の全てのいきもののお祈り、そして人がすべてのつながりに感謝するお祈り。

 おじいちゃんが帰らぬ人となった後、ぼくは森で地球のお祈りを感じとり、それに加わった。すべての生きるものに、おじいちゃんに「ありがとう」と。生きていることそのものへの感謝を感じさせてくれる素晴しい絵もゆっくり味わってください。
「聖なる夜に」
ピーター・コリントン/作 BL出版

 クリスマスの本来の意味は、神が救い主をこの世につかわしたその愛に感謝し、誰にでも愛をもって感謝を示す日。クリスマス・イブ、郊外の野原に一人住むロマの老女は、アコーディオンを持って街に出かけた。しかし、どれだけ音楽を奏でても、クリスマスの準備に忙しい町の人は見向きもしない。愛用のアコーディオンを質に入れ、店を出たところで、若者に財布を奪われてしまう。文字のないコマ割のイラストだけで物語が進みます。

 クリスチャンではないロマの老女が、もっともクリスマスにふさわしい行為をし、そこに奇跡が起ります。じっくりと味わってください。
 
 
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