東京の三鷹駅から歩いてすぐのところに、絵本屋「プーの森」があります。店長の野村羊子さんは、絵本を通して、お母さんや子どもたちの心に寄り添ってきました。野村さんにお願いして、大人と子どもに向けて、毎月テーマにあった、お薦めの絵本や書籍を紹介してもらうことになりました。どれも手にとってみたくなります。一緒に絵本の扉を開けてみませんか?
今月のテーマ
「 おそれ」
Nov-2008
 「おそれ」「恐怖」、それは何が起こるか予測がつかない不安、良くないことが起こるだろうという不安から起こるものです。そもそもは、天変地異をはじめ人智の及ばない、計り知れない力に対するのが畏れでした。
 強い恐怖は、人をすくませ、考えたり行動したりする力を奪います。どうあがいてもひどい目に遭う、動けばきっと悪いことが起こる。確かに暗闇などで闇雲に動くより、じっと気配を消して尋常ならざるものをやり過ごす方が安全だったでしょう。
 しかし、現代では、物理的な恐怖より精神的な原因による恐怖の方が大きな問題です。ひどい目に遭う、そう思うと身動きのとれない状態に陥ります。でも、その予測は思いこんでいるだけで、動いた方が危険を回避できることもあります。違う角度から見たら、危険でも何でもなかったということもあります。
 たとえば、深い谷底を目の前にして足をすくませている状態。下に降りてみたら深くは なかった。回り道したらすぐそばに橋があった。引き返したら本当に行きたいところに出た。跳んでみたら飛び越える力が自分にあった。あるいは、助けを求めたら崖はなくなっていた、なんていうこともあるでしょう。
 ふり返れば、たいしたことではなかった、ということも往々にしてあるものです。勇気を持って対処することはとっても大変です。1人で無理ならサポートを求めましょう。怖いと誰かに話すこと、そこから恐怖の克服が始まるのだと思います。

「きらめく船のあるところ」
作 ネレ・モースト  
絵 ユッタ・ビュッカー 
訳 小森香折  BL出版

 谷の小さなキツネとオオカミの家に来た旅人が、山の上の塔から見える海や船の話をしました。二匹は見に行こうと出かけましたが、「不安」に脅され逃げ帰ってきました。「恐ろしい目にあう」という不安、恐怖につかまり夢をなくした二匹の惨めな様子、そして勇気を出して、手を取り合って出かける様子。恐怖を克服することが短い文章で端的に語られていきます。

「手のなかのすずめ」
アンゲルト・フックスフーバー さく 
さんもりゆりか おつきゆきえ やく 
一声社 

  ティムはお母さんと市場へ買い物へ。あれ、お母さんはどこ?
幼い子どもから見た大人たちの雑踏は、まるで暗い森の中。ティムの不安と恐怖を端的に表すイラストです。その雑踏のなかで、ティムはうずくまる小雀を見つけます。自分より弱いものを守ろうとするとき、人は恐怖を克服し、アクションを起こします。
ティムを通して、人の心の動きを見事に描いた絵本です。

「カイちゃんのこわいこわい」
マッツ・レテン さく なかたかずこ やく 
小峰書店  

 カイちゃんがトラのお面をかぶって、グウォー。おかあさんが「きゃー、こわい」。こんどはおかあさん。お母さんのトラがグウォーと叫んだら、カイちゃんは怖くて泣き出してしまいました。お面を取ったお母さんにだっこされて、泣きやんだカイちゃん。2、3歳の子どもの姿を良く現しています。
 幼い子には、脅しや冗談が本当の恐怖になってしまいます。ちゃんと種明かしをして、よく見たら恐怖を克服できること、を繰り返し学べるといいですね。
 
「リサのこわいゆめ」
アン・グッドマン ぶん 
ゲオルグ・ハレンスレーベン え 
石津ちひろ やく ブロンズ新社 

  リサは、お化けオオカミの映画を見て以来、オオカミに襲われる怖い夢を見るようになりました。お父さんやお母さんに言っても、オオカミは追っかけてくるのです。
ある時、動物園で、オオカミに出会いました。リサはそのオオカミと友達になり、怖いお化けオオカミは夢には出てこなくなりました。怖いと思っていたものは本当は怖くない。よく知ると恐怖はなくなることを伝えてくれます。リサがずーっと檻の前に立ちつくし、オオカミと友達になるまでの間、待っててくれる家族がすてきだなと思います。
「十三夜はおそろしい本」
梅田俊作・佳子作 童心社

 おつかいの帰りに立ち寄ったお化け屋敷は、何のことはない仕掛けばかり。でも蛇女の部屋の前には見せ物より怖いいじめっ子のケンがいた。電気が消えた小屋から逃げ出すと、ケンも追いかけてきた。でもその先に白いものが見えた途端、ケンは叫んで逃げ出した。 
 腰を抜かした僕の前には、白塗りの蛇女のメイクをしたおっちゃん。「おなかに力を入れて しっかり見てみい」おっちゃんの言葉が身にしみます
「ふるやのもり」
日本の昔話 瀬田貞二 再話 
田島征三 絵 
福音館書店  

 貧しい暮らしのおじいさんとおばあさんの家に、泥棒が子馬を盗もうと入ってきました。同時にオオカミも忍び込んできました。そうとは知らぬおばあさんは「この世で一番怖いのは泥棒」、おじいさんは「それより怖いのはオオカミ」と言い合い、おばあさんが「ふるやのもりの方がもっと怖い」と言ったところに、雨が降りだしました。「古屋の漏りだ!」とおじいさんおばあさんが大騒ぎを始めたので、怖い化け物が出たとあわてた泥棒が梁からオオカミの上に落ち、オオカミは化け物に襲われたと勘違いして逃げ出しました。知らないものが一番怖い!ということがよくわかるお話です。同様の昔話は韓国などにもあるようです。
 
「ワニくんのながーいよる」
みやざきひろかず・さく・え BL出版 

  ワニくんは、こわい映画を見てしまいました。その夜、お風呂に入っても、テレビを見ても、こわーいものが出てくるような気がして落ち着きません。寝ようと部屋の電気を消すと、怖くて飛び起きてしまいました。トイレも冷蔵庫すら開けられません。何にもないにもかかわらず、勝手に恐怖を創り出している様子がよくわかります。笑って読んだあとは、ふと我が身をふり返る、そんなお話です。
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