東京の三鷹駅から歩いてすぐのところに、絵本屋「プーの森」があります。店長の野村羊子さんは、絵本を通して、お母さんや子どもたちの心に寄り添ってきました。野村さんにお願いして、大人と子どもに向けて、毎月テーマにあった、お薦めの絵本や書籍を紹介してもらうことになりました。どれも手にとってみたくなります。一緒に絵本の扉を開けてみませんか?
今月のテーマ
「 笑い 」
September-2007
 「笑う角には福来たる」とは、よく言ったものだと思います。
幼い子がいると、笑いが絶えません。本人はそんな気がないのに、大人から見れば滑稽なことをしてくれます。微笑ましさに大人が笑えば、まじめにやっているのにと子どもが憤然とする場合があります。またそれが可愛いと笑えてきます。失敗も苦労も、すぎてしまえば笑い話となります。笑うことで、気を取り直し、前向きに向かっていくことができるようになるものです。
 絵本は、今ちまたにあふれている「人の失敗をあざ笑う」のではなく、上質なユーモア、ナンセンスな笑いを教えてくれます。なにがそんなにおかしいのと思うような場面に、子どもが笑い転げていると、大人もつられて笑ってしまいます。いっしょに笑いあう経験というのも、人を育み、絆を支える大事な基盤の一つではないでしょうか。

「にゅーっ するするする」
作・絵 長新太 
福音館書店

 赤い地面から、黄色い手が「にゅーっ」。車をつかむと「するするする」と戻っていきます。 ただそれだけの絵本なのに、受ける子には大受けする絵本。意味を考え出すと、大人には結構怖いかもしれません。意味がないからこそナンセンス。ナンセンス絵本ではピカイチだった長さんの作品です。

「うえへまいりまぁす」
作・絵 長谷川義史 
PHP研究所


 きょうはデパートでおかいもの」。エレベーターで「うえへまいりまぁす」。2階婦人服売り場で、「おかあさんはみずぎをかった」。水着に着かえたお母さんもいっしょのエレベーターに乗り込みます。「45階おすもううりばでございます」。どんどんナンセンスになっていきます。画面もどんどん書き込まれ、ここでこんなもの売ってるよ。などと大騒ぎしながら楽しめます。今、一番脂ののっている個性あふれるナンセンスな世界を展開する絵本作家です。
 
「かぞえうたのほん」
岸田衿子作 スズキコージ絵 
福音館書店

 言葉遊びたっぷりの楽しいかぞえうたが6編入っています。子供たちが身振りをつけて勝手に歌ったりして楽しめるようなものばかりです。言葉遊び、駄洒落も小さい子が一時はまる遊びです。いろいろな意味が分かってくるとそれをあれこれ使い試してみる、という発達段階にあるのでしょう。自分なりのかぞえうたをつくったり、替え歌をつくったりして、いろいろ楽しめます。ある保育園では、身振りつきで踊りながらこの数え歌を楽しむそうですよ。
「ピッツァぼうや」
ウィリアム・スタイグ作 木坂涼訳 
セーラー出版

 ピートはご機嫌斜めでした。そこでお父さんは、ピートでピッツァをつくることにしました。キッチンテーブルの上に、息子を乗せ、まじめな顔でこね始めます。いいですねえ、こんなお父さん。何事かと見に来たお母さんもいつの間にか参加しています。雨で外にでられない退屈な日には、ピッツァぼうやごっこしましょうか。
スタイグは、このほかにもユーモアたっぷりの絵本をいくつも描いています。「いやだ、いやだのスピンキー」では、すねてしまい家族の誰がなだめても機嫌の直らないスピンキーが、最後に自ら道化となって家族と和解する姿を描いています。笑いの効用を知り尽くしている作家といえるでしょう。
「だじゃれどうぶつえん」
文・中川ひろたか 絵・高畠純 
絵本館

 ペンキを塗っているペンギンのイラストに「ペンギン ぬりたて」のキャプション。カレーを食べてあふあふしているライオンのイラストに「かライオーン」。もう単に笑うしかないような駄洒落のオンパレード。くすっと笑っても、ハハハと力なく笑っても、プッと吹きだしても、なんとなく脱力してしまいます。疲れ切った人にどうぞ。「だじゃれしょくぶつえん」「〜すいぞくかん」「〜レストラン」とシリーズがでています。

「どうすればほめてもらえるの?」
まついなつき著 
現代書林

 自分の育児体験を笑い飛ばしながら描く育児漫画『笑う出産』でデビューした著者は、徹底して自分の、そして女性の置かれた場を突き放して考えていきます。「幸せになりたい」=「どうすればほめてもらえるの?」。そこで、ロウドウ、シゴト、ジゴジツゲン、ジリツを分けて考えていきます。笑って放り投げてもよし、笑った後にもう一度我が身をふり返っても良し、所々に挿入された漫画だけ拾い読みしても良し。過激な内容は、読者を笑いながら考え込ませてくれるでしょう。
 
 
 

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